アメリカの「常識」に対抗できる「はなれわざ」とは?

婚約を決めた娘のアリソンが「ウエディングは自宅でする!」と言い出し、はじまった自宅での手作り結婚式。自宅に招待できる人数が限られる中で、招待客のリストアップには頭を悩ませるところ。しかもアメリカでは、パーティーなどに招かれた人が、伴侶や恋人を同伴する「プラス・ワン」という習慣があるようで…。

日本人だけでなくアメリカ人からも「国際結婚で海外に住むのはさぞ大変でしょうね」と同情されることがある。たしかに大変なことはあるが、得をすることもある。たとえば、私が日本で慣習を無視してやりたいことをやると「常識はずれだ」と批判されがちだ。ところが、同じことをアメリカでやると、「文化の違いだから仕方ないよね」と大目に見てもらえることが多いのだ。結婚29年のベテランの私は、これをうまく利用して自分が無視したい「世間の常識」をうまく避ける技術を身につけてきた。

たとえば、トランプのようなカードゲームには、エースやジョーカーなど、うまく使えば不利な状況を一転して勝利に変えることが可能な「万能カード」がある。アメリカの親族から自分のやりたくない「常識」を押し付けられそうになったら、「私は日本人ですから、その伝統(創作の場合もある)に従おうと思います」と軽くかわし、喧嘩腰にもならず、自分のやりたい方法を押し通せてしまうのだ。周囲も「そうか、育った場所の伝統なら仕方ないよね」と遠慮してくれる。私はこれを万能カードとしての「日本人カード(Japanese card)」と呼んでいる。求める結果を得るためには熟練したスキルと戦略が必須なのだが、その点もゲームの万能カードと同様である。

自宅ウエディングには何人招くことができるのか?

娘の自宅ウエディングで、私が最初にこの「日本人カード」を使ったのが「参列者リスト」だった。

日本でも同じだと思うが、式に何人招くのか決めないと予算も立てられないし、会場も決められない。アメリカも同じで、5話でご紹介した結婚式準備のチェックリストでは、式の12ヶ月前に真っ先にやることのひとつである。

娘の結婚式の場合は、最初に「自宅でやる」ということが決まったので、参加者の数でベニューを決めるのではなく、その逆になる。

何人招待するのかは、わが家のキャパシティにかかっている。だが、何人詰め込むことができるのか試したことがないからわからない。


裏庭でパーティーをする予定にしていても、雨が降ったら家の中に参列者全員を押し込まなければならない

増改築が終わった後に「ブロックパーティー」という近隣の集いの場を提供したことがあるのだが、そのときに集まったのは50人ほどだった。その日は裏庭を使わなくても十分余裕があったし、ウエディングのときには家具を別の場所に移せば広く使える。夫と私は「倍の数でもたぶん大丈夫だろうね」といい加減な推定で「100人ならOK」と娘に伝えた。


近所から約50人が集まったブロックパーティー

だが、新郎のベンの両親には親戚が多くて、それだけで40人近くになるという。親戚の一部だけ招いて別の者を招かないと家族関係にひびが入るから減らせない。わが夫の家族のほうは12人程度だから良いが、これに新郎新婦の交流関係、それぞれの親の交流関係を加えていったら軽く200人を超えることになる。

しかし、どんなに楽観的に考えても、雨が降ったときのことを考えたら200人を室内に収める自信はない。そこで、招待しても参列できない人がいることを想定し、招待状を送る数を120人と設定した(結果的にはもっと多くなったようだが)。

では、どうしたら100人も減らすことができるのか?

このような難問にぶつかったときには、5話でご紹介した「ミッション・ステートメント」と「方針」が役立つ。それに照らし合わせて考えてみた。

1.結婚式は結婚する2人のためにある。親族や親の見栄のためではない
2.結婚する2人が重視することを尊重する

私にとっての悩みは日本に住む家族だった。
娘が日本に住んでいた幼い頃にはよく会っていたが、渡米してからの20年間は地理的な距離のために交流が希薄になっていた。それに、私が式の段取りをしなくてもよい「花婿の母」だったのなら、家族を空港に迎えに行ったり、ホテルからわが家まで送り迎えをしたりする世話は可能だろうが、ウエディングが終わるまで責任者の私には1秒の余裕もないことが予測できる(実際に式の数日前から食事を摂る暇すらなかった)。

英語ができない私の家族を時間に余裕があるアメリカ人に任せるわけにもいかない。日本から私の家族を結婚式に招くのは、彼らにとっても、結婚式を取り仕切らなければならない私にとっても、負担が大きすぎる。80を超えて体力が衰えている母も「アメリカに行くなんて無理」と言う。一緒に祝いたい気持ちはあったが、1と2の方針を重視して、日本から家族を招くのは諦めた。

次の問題は、「親の交流関係」だ。
夫の末の弟が最初の妻と結婚したときには、500人以上の参列者のうち会社経営者の花嫁の父の交流関係が大半だった。29年前の夫と私の結婚式でも参列したのは義母の友人がほとんどだった。このように、アメリカの結婚式では親の交流関係を招くのが当然とみなされているが、娘の結婚式でそれを再現するつもりはなかった。

私はこう提案した。
「招くことができる人数には制限がある。結婚する2人がなるべく多くの友人を招くことができるように、親の交流関係は最低限度にしよう」

そして、言い出しっぺの私自身が招待するのは、娘のアリソンが6歳から始めた競泳で仲良くなったチームメイトの両親1組だけだ。いくつもの困難を一緒にくぐり抜けた仲であり、家族ぐるみの友だちだ。

もう1組の家族ぐるみの仲良しは、娘が招待した。

夫が招いたのは高校時代からの親友夫婦と過去10年最も親しくしている友人のみであり、ベンの両親も、たぶんもっと多くの友人や仕事関係の人を招きたかったと思うのだが、何の文句も言わずに「招く友人はひとりだけ」のルールを受け入れてくれた。

アメリカの慣習「プラス・ワン」とその問題

次に私が着目したのが「プラス・ワン」問題である。

アカデミー賞の授賞式でノミネートされた俳優が必ず誰かと一緒に現れるのを見たことがあると思うが、アメリカには、このように夕食やパーティーに招かれた人が伴侶や恋人を同伴する慣習がある。結婚式でも、アカデミーの授賞式と同様に招待状に「プラス・ワン(あなたのほかにもうひとりお連れください)」をつけるのが常識になっている。私も夫の「プラス・ワン」として知らない人の結婚式に行ったことがある。

私は「プラス・ワンをやめよう」と提案した。

夫は即座に「それはできない」と答え、娘も躊躇した。「プラス・ワンを招待しないのは、慣習を破ることになり、失礼にあたるのではないか?」という考え方だ。

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まさかの自宅ウエディング

渡辺由佳里

娘のアリソンが長年のボーイフレンドのベンと婚約を決めた。と思ったら、「ウエディングは自宅でする」と言い出してパニックに陥ってしまった渡辺由佳里さん。自身の経験から結婚式にトラウマも抱える渡辺さんとその家族の1年にわたる「手作り結婚式」...もっと読む

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コメント

yuhyuh__ |渡辺由佳里 @YukariWatanabe |まさかの自宅ウエディング 面白かったです。 https://t.co/d15CZAy97A 5ヶ月前 replyretweetfavorite

keiko_red |まさかの自宅ウエディング|渡辺由佳里|cakes(ケイクス) https://t.co/aUFerLoTjS 5ヶ月前 replyretweetfavorite

kitamaru 誰を招待してしないのか、それが問題だ……これはもう大河ドラマなのではwwってくらい面白い。>> 5ヶ月前 replyretweetfavorite

iharamiki このライターいい! 5ヶ月前 replyretweetfavorite