お化け屋敷を始めて間もない頃、出口から笑って出てくるお客様を見て、私は演出が足りないのだと思っていた。
お化け屋敷は、ひたすら怖くて、館内には悲鳴と絶叫が響き渡り、泣き出すお客様が続出する。そういうものが理想のお化け屋敷だと思い込んでいたのだ。実際、そのように考えている人も多いのではないだろうか。
けれど、それはお化け屋敷とは言えない。もちろん、恐怖を味わってもらうアトラクションという言い方に誤りはない。もっと怖く、さらにもっと怖く、と怖さを追求することにも間違いはない。しかし、それだけでお化け屋敷といえるだろうか。もしそういったものを目指すのなら、もっとほかに方法はある。真夜中にたった一人で山の中の事件のあった廃屋に行けばいい。幽霊が出るという噂の絶えない廃病院で一夜を過ごせばいい。
それこそ自分が求めている恐怖体験だと言って、出かけていく人もいるだろう。実際、そういった場所は地元の若者の度胸試しに使われていたりする。けれど、仮にそれをお化け屋敷だとして、ひと夏で何万人ものお客様が来てくれるだろうか。もちろん、地の利の悪さという問題もあるだろうが、そのような問題を考慮しても、そこにお客様が訪れるとは思えない。そこには、お客様がお化け屋敷に求める何かが欠けているからである。
その「何か」とは、一体どんなものだろう。
それは「楽しさ」なのである。お化け屋敷とは、恐怖を体験して楽しさを得るアトラクションなのだ。
当たり前じゃないか、と拍子抜けした人もいるかもしれない。けれど、ここで重要なことは、「結果として楽しませる」ということではなく、意識的に「恐怖を使って楽しませる」という点である。無自覚に恐怖を追求すると、誤った道へ進むことになる。
では、どうしてお客様は外に出た瞬間に笑顔になるのだろうか?