「えっ、ホントにそうだったんだ!」
幻冬舎・見城徹が「何度も胸が詰まり、何度も堪え切れずに泣いた」「歌詞と現実が縒り合わさってこの世あらざるラヴ・ストーリーが展開される」(トークアプリ「755」より)と評した小松成美『M 愛すべき人がいて』を読んだが、こちらの胸が詰まることはなかった。では、自分にとってどういった1冊になったかといえば、これまで抱えてきた、「どうせ、アレでしょ、業界のエラいオトコたちって、クラブのVIPルームで偉そうに踏ん反り返って、たくさんやってくるオンナたちを品定めしたりしてるんでしょ?」という、さすがに雑すぎるイメージが、「えっ、ホントにそうだったんだ!」と定着する1冊になった。
10年ほど前、文芸雑誌の編集者をしていた頃、新人賞の応募原稿を大量に読んでいた。小説の評価基準って箇条書きにできるものではないが、「うひょー、そんなベタな展開ないっしょ!」と思わせる作品はどうしても落としがち。要所で必ず交通事故に遭うとか、思い出の場所にやっぱりアナタも来ていたとか、そういった展開を読むと、感想が「ないっしょ!」と雑になる。実際にあるかどうかを小説の評価基準にしてはいけないはずだが、頭のどこかにやっぱりそれが残ってしまう。クラブのVIPルームにいたエラいオトコに見初められてスターになるベタな小説があれば、そこに向ける評価は「ないっしょ!」になるが、浜崎あゆみが「あるっしょ!」と教えてくれたのである。ベタな展開って、本当にあったからこそベタなのかもしれない、と少しだけ反省する。
インスタントの味噌汁をスーツケースに敷き詰める
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