名前のかっこいい場所に行きたい。名前がかっこいいとそれだけで旅情が掻き立てられて、旅が楽しくなる気がする。駅名だと「祇園四条」とか「九段下」とかは基本を抑えたかっこよさだし、初めて「天空橋」のアナウンスを聞いたときは思わず電車を降りた。
海外だと名前のかっこよさはさらに重要性を増し、「サマルカンド」とか「エルサレム」とか「カサブランカ」とか、もう身悶えするほど心をくすぐられる。ああかっこいい。実際全部行った。
そんな中、以前から注目していた国名がある。
その名も「エルサルバドル」。
エルサルバドル。バドルを巻き舌で発音したくなる。僕はそういうところに行きたい。
エルサルバドルは中米にある。首都は「サンサルバドル」(外務省HPから作成)
エルサルバドルへは以前から旅行計画を立てていた。しかし問題がある。治安が悪いのだ。ネット上で情報を集めていても、中米でも特に注意が必要な国だと書いてある。長く続いた内戦の影響で武器が広く普及し、犯罪組織が跋扈しているという。
僕は結構いろんな国を旅行しているけど、めちゃくちゃビビりなので少しでも治安の悪い場所には近づかない。なのでエルサルバドル行きには二の足を踏んでいた。
でも気になる。エルサルバドル。行けないならせめて日本でその片鱗に触れられないかと、エルサルバドルゆかりのスポットを探す。ドイツ村やスペイン村みたいに「エルサルバドル村」みたいなものがないかと調べたけれど、やっぱり全然なかった。それどころかエルサルバドルショップもないし、エルサルバドル料理店すら見つからない。なんでだ。エルサルバドルは日本人にとって未開の地なのか?
◇
6月。朗報が舞い込んできた。なんとサッカー日本代表がエルサルバドル代表と対戦するというではないか。エルサルバドルとの試合は、日本サッカー協会の100年近い歴史において史上初めてらしい。この機を逃すと、彼の国に触れるチャンスはもうないかもしれない。
試合は宮城県で行われる。僕はすぐにチケットを手配し、準備を始めた。宮城県でエルサルバドルに触れる旅である。
旅の鍵はエルサルバドルサポーターに会うことだ。エルサルバドルサポーター。早口言葉みたいで素晴らしい。エルサルバドルはかつてサッカーの試合をきっかけに戦争が起きた歴史すらあるというから、サッカー人気は高いはずだ。きっと熱狂的なサポーターたちが大挙して押しかけるに違いない。彼らに会って、僕はエルサルバドルを感じるのだ。
準備1:サポーターが行きそうな場所を調べる
サポーターが来日したとして、彼らはどこに向かうのか。とりあえずエルサルバドルの掲示板をネットで探してみたが、見つからなかった。海外の匿名掲示板である4chやredditも調べてみたけど、エルサルバドルという単語すらヒットしない。ネットの海でさえその空気に触れるのが難しい場所、エルサルバドル。ますます神秘的である。
Googleでは日本にいながら各国からの検索結果を調べることができて、僕はエルサルバドルでそれを試すことにした。ちなみにURLはこれである。エルサルバドルに触れたくなったらいつでも活用してほしい。
「仙台 ゲストハウス」とスペイン語で検索したときに一番上に表示されたゲストハウスは見るからに国際的で、僕がエルサルバドルサポーターだったら間違いなくここに宿泊するだろう。現に空室はわずかしかなくて、僕は迷わずこの宿を予約した。
準備2:エルサルバドル代表をフォローしまくる
選手の行くところにサポーターあり。来日したサッカー選手は試合後なんかにだいたい観光をしたりする。その足取りを追えば、自然とサポーターに会えるかもしれない。宮城県で試合を行うということはきっと仙台には寄るだろうし、商店街で飲み歩いたりするかもしれない。
その行方を追跡するため、僕はエルサルバドル代表の名前を1つ1つSNSで検索し、フォローすることにした。エルサルバドルストーキングである。
検索してみてわかったのは、エルサルバドルではTwitterの人気は低く、InstagramやFacebookの人気が高いことだ。人気の高い「ハイメ・アラス」選手や「ネルソン・ボニージャ」選手はInstagramをやっていて、数万人のフォロワーがいる。僕は彼らを漏れなくフォローした。
準備3:エルサルバドルをアピールする
最後の作戦は、自らエルサルバドルへの関心をアピールすることだ。幸い僕は顔がなんか中米っぽいので、あとは服装だけである。
Amazonや楽天でエルサルバドルグッズを探してみたけれど、案の定全然売っていない。「エルサルバドル」で唯一ヒットしたTシャツを衝動的に買ってみた。
買った後に気づいたけど、これ日本語で書いてあるからエルサルバドル人は読めない。エルサルバドル人に気づかれないと意味がない。
しょうがないので、Tシャツは自作することにした。そのシャツがこれである。
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