できるだけたくさんの「顔」を持ち続けること
【登場人物】
紫原明子(スペシャルゲスト)
1982年生まれのエッセイスト
著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)がある
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、前回から引き続きエッセイストの紫原明子さんをゲストにお迎えして、「恋愛と友情」をテーマに恋バナしていきます。
紫原 よろしくお願いします!
清田 今回も“メスみ”、“オスみ”、“フレンドシップ”という言葉がキーワードになります。おさらいしておくと、メスみとオスみとは、自分の中にあるセクシャリティ(女性性と男性性)のようなもののことです。
ワッコ フレンドシップは、友情よりも少し広い意味で使っていて、信頼関係や安心感みたいな感情のことでしたね。
森田 前回は男女の友情の話から、フラート(いっときの戯れなやり取りや微量のエロスを含むコミュニケーション)が話題になったよね。
ワッコ わたしや清田さんがなぜフラートできないのか、その原因がちょっとわかった気がしました。
森田 今日は紫原さんの恋バナもたっぷりお聞きしたいなと! 紫原さんは現在、パートナーの男性がいらっしゃることを著作に書かれていますが、その方との間でのメスみ・オスみやフレンドシップはどういう塩梅なんですか?
紫原 私はバツイチで、子供が二人いるシングルマザーなんです。子供がいるとちょっとまた事情が変わってきて、メスみとフレンドシップの他に“親”という人格が出てくる。
清田 新キャラが登場するってことですね。
紫原 子供の前では親であることを徹底したいので、以前は物理的に分けていました。家の中には恋愛は持ち込まないとか、昼は子供のための健やかな時間なので、恋愛は夜にしかしないとか……。でも、ともに親としていてくれるような男性が現れたので、ようやく恋人を家の中に入れられるようになりました。
森田 そのことで何か変化はありましたか?
紫原 恋人同士という関係性が崩れないように、より努力するようになりました。前の結婚がそうだったんですが、「生活のパートナー」になってマンネリな状況に陥るのではないかという心配があって。でも、彼もバツイチでお互い結婚に失敗しているもの同士なので、同じ過ちを繰り返さないように気をつけてます。
清田 どういうところに気をつけてるんですか?
紫原 二人とも、できるだけたくさんの「顔」を持ち続ける努力はしてると思います。外に行く時は外の顔、二人でいるときは恋人の顔、家にいる時は二人ともメスみとオスみを完全に消した親の顔をしてます。
清田 顔を使い分けるというのはおもしろいですね。
森田 そこって実際にはすごく繊細なところですよね。多くの場合、恋愛を駆動するのはメスみとオスみだと思うんだけど、関係性を深める過程ではフレンドシップが前に出てきて、メスみとオスみは徐々に後退していく。結婚だとそれが如実に現れることが多いだろうし。
清田 「もう男と女の関係じゃなくなった」みたいなことはよく言われるよね。
森田 メスみとオスみって、付き合う前の、それこそフラートしてる時がたぶんマックスだよね。これはワッコが言うところの“可能性濡れ”の話にも通じることだと思うんだけど。
紫原 ワッコさんは『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(以下『モテすべ』)の中で、ご自分の「人生で一番エロかったエピソード」として紹介されてましたよね。
ワッコ はい、あれがわたしの人生唯一のフラート体験ですね。ある飲み会で会ったイケメンと話がケミって盛り上がり、この人いいかもって思っていたら、彼がなんとわたしとはす向かいのマンションに住んでるということが判明したんです。そこから一緒にタクシーで帰る流れになり、今後なんかあるんじゃないかと興奮して。さらにお互いの部屋から相手の部屋を写メで撮り合おうという話になり、「え!? そんなん、エロいじゃん!」みたいに盛り上がりました。
紫原 その経験が、花火大会の人ごみの中でフェラチオした思い出よりもエロかったとも書いてましたよね。
ワッコ 5億倍エロかったです!
清田 そのときの興奮を“可能性濡れ”と名付けた。
ワッコ 「今後なんかあんじゃね……?」というところに、わたしは興奮するんじゃないかなと考えました。
紫原 次に足りない部分がもっと欲しくなるような、to be continued を残しておくのがいいのかもしれないですね。
清田 なるほど。フラートって「ちょっと足りない」ってことなのかもしれないですね。
ときめきは消耗品
森田 紫原さんがご著書『家族無計画』の中で書かれている「ときめき」と「可能性濡れ(≒フラート)」って、似たところがあるんじゃないかなと思ったんですけど、どうですか?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。