「フォーミング」で必要な「心理的安全性」
「フォーミング」を進めるために必要なのは、「心理的安全性」の確保です。
そのためには、コミュニケーションの「量」を増やすアプローチが効果的です。
こう書くと、「なるほど!じゃあミーティングの機会を増やせばいいんだ!」と、張り切って実行される方もいるかもしれません。
ミーティングを設ける前に考えておきたいのは、「なぜコミュニケーションの量が大切なのか」ということ。「何のためのコミュニケーションなのか」の根本を理解したうえで実施しないと、メンバーが「仕事が忙しいのに、無駄な時間を取られている」と感じてしまいます。
そこでまずは、「心理的安全性」について考えていきましょう。
概念そのものは、ハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年から提唱していましたが、注目を集めるようになったきっかけは、グーグル社が「プロジェクトアリストテレス」というタイトルで、人材と組織開発について調査研究し、「成功するチームを作り上げるための5つの鍵」を報告・発表したことでした。
その5つの鍵の1つが心理的安全性だったため、メディアで目にする機会も増えてきました。
心理的安全性をシンプルに表現すると、「何(これ)を言っても大丈夫」「リスクを取って失敗しても責められない」という心理状態を指しています。
チームづくりにおいては、「このチームでリスクを取って、仮に失敗しても大丈夫だと、メンバーの中で共有されている信念」だと考えられます。
この心理的安全性が確保されている環境をつくりだすために必要なのが、コミュニケーションの「量」なのです。
ここで指す「コミュニケーション」は、対面での会話のみを指すのではなく、「その集団の中で流通する情報量を増やす」という意味を込めています。
たとえば、メールやチャット、書面といったテキストでの言語的なやりとりもコミュニケーションの1つ。たとえ会話がなくても、映像で伝えることやその場に一緒にいることも、立派な視覚的・非言語的なコミュニケーションです。
コミュニケーションが「無駄」と思われてしまう理由
しかし、こうしたコミュニケーションの「量」を増やそうとすると出てくるのが、「この会議、本当に必要?」「時間の無駄じゃない?」という声や、「コミュニケーションコスト」という考え方。
じつは、「無駄」という空気が生まれる背景には、「チーム内で、会議の目的や主旨のアナウンスが事前にあったかどうか」「メンバーが発達段階という概念を共有したうえで取り組んでいるか」などが、大きく影響しています。
「私たちのチームはフォーミングの段階だから、みんなで成長するためにも、この1カ月はコミュニケーションの量を増やしていくことが大切だね」
この感覚が共有されていないのに、「これからは毎朝ミーティングをやりましょう」「週に1回はメンバーでランチをしましょう」と提案しても、「何で?それ必要?」といった反応が生まれてしまうのは仕方ありません。
「無駄」と感じてしまう要因を減らしていくためにも、まずは「チームの発達段階」というフレームワークを有志のメンバーで共有する機会を設けるとよいでしょう。その際、「全員強制」ではなく希望者のみで始めることをおすすめします。
必ずしも朝礼を全員参加にする必要も、全体会議でみんなが同じことをやる必要もありません。集まりたい人・集まれる人で開催し、そこに参加できなかった人たちが集まれるような機会を、別につくっていけばよいのです。
飲み会が苦手な人たちならランチでもいいですし、ランチに参加できない人たちのためのお茶会だってかまいません。コミュニケーションの「量」を増やせるような複数のチャネルをつくり、継続的に積み重ねていきましょう。
また、リラックスして話せる環境づくりが、コミュニケーションの量を増やしてくれます。
あくまで一例ですが、僕のワークショップでは、基本的に座る場所・座り方は自由です。それぞれがリラックスできるような座り方を促します。
よくある「コの字型」や「スクール形式」で進めることはほとんどしません。会議室のような机や椅子だと、話に参加せず、別の作業をする「内職」も始まってしまいます。
自分で座り方を選んでもらう理由は、環境がその人の行動を決めてしまうこともあると考えているからです。会議の場で話に参加しない人が悪いのではなくて、「内職」ができてしまう環境をつくってしまうから、という考え方。
であれば、つい話をする、話を聞きたくなってしまう環境や雰囲気をつくってしまうのも、1つの方法だと思います。
椅子をソファにしたり、テーブルを低いタイプにして「内職」をしにくくしたり、全員の顔を見えやすくして目線をあげてもらったり、リラックスした雰囲気を促すのにお菓子を用意したり……。
最初はぎこちない空気が流れるでしょうが、そもそも、お互いをよく知らない「フォーミング」なのだから気にすることはありません。コミュニケーションの量が増えお互いのことが徐々にわかってくれば、「気まずさ」も薄まることでしょう。
『宇宙兄弟』では、月面ミッションに向けて結成された六太のチーム「ジョーカーズ」がキャンプ訓練に入った際、キャプテンのエディは全員で焚火を囲み、1人ずつ自分自身のことを話す機会をつくっていました。
このとき六太は、弟の日々人がパニック障害と闘っていることをメンバーに打ち明けていますし、女性宇宙飛行士のベティ・レインは、宇宙飛行士だった夫を帰還船の墜落事故で亡くし、息子のため、自分が夫の代わりに月へ行くのだと語っています。
大自然の中で焚火を囲みながらのミーティングは、メンバーがリラックスして話せる最高のシチュエーションです。おそらくエディは、こうした場づくりも得意なのでしょう。
じつは僕も焚火が大好きです。「何を話すか」というテーマがなくても、その人の悩みや気がかりに思っていることを話してしまうのは、「自然の中での焚き火」という環境が、心理的安全性を促してくれるのでしょう。 いつもは毒舌なベティも、息子への想いをメンバーに話してくれていますね。(34巻#321)
ちなみに、どうしても苦戦するようならば、話すテーマを提供してくれるカード『シャベリカ/宇宙兄弟エディション』を使ってみるのもおすすめです。
カードには『宇宙兄弟』のシーンと共に、「食べたことがなくて食べてみたいもの」「見ると思わず笑顔になってしまうもの」「一度でいいからやってみたい贅沢」「地球最後の日、どこで誰と何をする?」といった様々なトークテーマが書かれています。
仕事の話から広げようとすると、どうしても硬くなりがちですが、こうしたゲーム要素を上手に利用すれば、お互いのことを自然と理解していくことができます。
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