フライパンで焼く料理は茹でる料理よりも難易度が上がります。『目玉焼き』を例に考えてみましょう。
焼く料理のジレンマ〜目玉焼き〜
2.弱火のままじっくりと加熱し、黄身の周りにある白身が透明から白くなるまで加熱する。
3.器に盛り付け、好みで白胡椒を振る。
目指すのは白身がしっかりと固まり、黄身は滑らかな状態。卵のタンパク質の変性温度については、前章のゆで卵の項でも説明しましたが、問題は黄身と白身では目標温度が違うこと。黄身は65℃〜70℃で、白身は75℃〜78℃で固まります。この違いを知ると、目玉焼きという料理の難しさがよくわかります。
例えば学校の家庭科の時間に習う目玉焼きのつくり方は『十分に熱くしたフライパンに卵を割り入れて、蓋をして蒸し焼きにする』というもの。この方法はフライパンに閉じ込めた100℃の水蒸気で黄身を加熱することになります。ただでさえ凝固温度が低い黄身を積極的に加熱するわけですから、失敗しやすいつくり方です。
厄介なのは白身と黄身では目標温度だけではなく、熱の伝わりやすさも異なること。解決策は白身だけに塩を振ることです。黄身に塩を振るとその部分に斑点ができ、美しさが損なわれるという理由もありますが、塩を振ることでタンパク質の凝固を早めることができ、白身に早く火が通る=黄身に火が通り過ぎるのを防げます。固まった白身に、温まって濃度がついた黄身を絡めながら食べる目玉焼きは極上の味です。
目玉焼きは焼く料理の基本。目玉焼きが上手にできれば様々な焼く料理がつくれるようになります。
『焼く』が『茹でる』よりも難しい理由は温度にあります。茹でる料理は水の沸点である100℃で加熱しますが、焼く料理はそれよりも高い温度で加熱します。温度が高いほど調理は早く進むので、加熱しすぎや焦げてしまったりといったリスクが高いのです。
強火、中火、弱火の使い分け
目玉焼きは終始弱火を使いましたが、目的の仕上がりに応じて「強火、中火、弱火」を使い分けることも重要です。料理書ではこの強火、中火、弱火の使い分けについてはあまり詳しく書いていませんが、強火、中火、弱火の用途をざっくりとおぼえておきましょう。
まず、強火は表面を香ばしくしたいときに使います。この時のフライパン表面の温度は180℃〜200℃くらい。この温度は揚げ物をつくる際も同じで、カリッと香ばしく揚げたい場合の適温とおぼえておきましょう。
強火で焼く料理には『牛肉のステーキ』や『炒め物』があります。また、『オムレツ』などもはじめに強火で一気に加熱することで水蒸気を蒸発させ、卵をふっくらと膨らませることでおいしさをつくります。
強火で熱したフライパンに油を注ぎ、食材を入れたら、火加減を中火に落とすのもセオリー。鍋肌の温度を維持するだけの火力があればいいからです。じつは焼く料理では強火はあまり使いません。ガスコンロの強火の使い道は主に〈鉄のフライパンを予熱するとき〉〈お湯を沸かすとき〉〈肉の表面に強い焦げ色をつけたい場合〉の三つです。
次の中火は焼く料理で一番、使用頻度が高いでしょう。中火にかけ、食材を入れたフライパンの温度はだいたい160℃前後になります。鶏肉や豚肉、魚、野菜などにじっくり火を通したいときに向いています。
『表面が焦げているのに中が生になってしまう』
という失敗の原因はほぼすべて火加減が強すぎること。焦げてしまったら次に料理するとき、少し火を弱めてみてください。最近のコンロは高火力なので、思ったよりも火が強いケースも多いのです。素材から蒸発する水分によって鍋の表面温度はある程度、一定に保てますが、もしも温度が高くなりすぎた場合はフライパンを火から外して調節します。
さきほど目玉焼きを焼くのに使った弱火の場合、フライパンの表面温度は120℃〜140℃くらい。ジャガイモやレンコンなどの根菜、大きな肉の塊を焼く場合に使う火加減です。ゆっくりと火が通る安全運転なので、初心者の人にオススメの火加減です。
しかし、弱火には弱点があります。水分が多い素材を入れるとフライパンの表面温度が100℃前後になってしまうことです。これでは煮たのと同じ状態なので、なかなか焦げ目がつきませんし、加熱に時間がかかってしまいます。焦げ目がほしい場合は弱火で火を通した後、最後に表面を強火であぶるなどの工夫が必要です。
焼く料理では高温と低温を同時につくる〜鶏の照り焼き〜
卵は白身と黄身で求める仕上がりの温度が異なりましたが、実はそれは肉や魚も一緒。例えば鶏は皮と身で火の通り方が異なりますし、肉と脂でも違います。そして、肉は表面に香ばしい焼き色がついて、内側は加熱しすぎずジューシーな状態が理想。つまり、焼く料理の目標は高温と低温という二つの温度を達成すること。
次に紹介する照り焼きは皮目をカリッと高温で焼き、身側は低温でジューシーに仕上げます。