「オールブラックスとは何か」 スランプ時、絶対王者が自らに問いかけたこと
オールブラックスの高きプライド、その象徴とも言えるのが、試合前に彼らがおこなう儀式「ハカ」である。「カ・マテ カ・オラ(私は死ぬ 私は生きる)」を朗々と歌いあげながら、独特のリズムで地を踏みしめ、体を叩き、目を見開いて舌を出す。試合前に士気を高め、対戦相手に闘志をむき出しにする。圧倒的な迫力である。ラグビーを知らなくても、このハカだけは見たことがあるという人も多いのではないだろうか。
今ではオールブラックスだけではなく、野球やアイスホッケー、バスケットボールなど、ニュージーランド代表の多くのスポーツで見ることができる。ハカの歴史は古く、オールブラックスがこの儀式を初めて試合前におこなったのは、1905年からである。もともとはマオリが戦いの前に、自分たちの結束を相手に誇示するため伝統的に舞っていたものだ。案外知られていないかもしれないが、実は威嚇だけでなく、相手チームに敬意を表する意味もある。
皆さんは、この儀式はオールブラックスの「復活」の象徴でもあるということをご存じだろうか。2004年ごろのことだ。オールブラックスが低迷期に入ったことがある。名ヘッドコーチとして名を馳せたグラハム・ヘンリーの指導も奏功せず、同チー ムは南半球の強豪国代表チームが集うトライネイションズで四戦二勝二敗の成績。ショックなことに最下位という結果に終わり、予期せぬスランプに陥っていた。チーム全体が自信を失い、選手やスタッフのモチベーションも低く、普段ならあり得ないネガティブな言葉さえ飛び交っていたという。
トライネイションズのツアーから帰国したグラハム・ヘンリーは、ウェリントンにあるニュージーランド・ラグビー協会の部屋にこもりきっていた。ラグビー協会の関係者との話し合いが延々と続けられていたためだ。話の内容は、今後どのようにオールブラックスを立て直していくかであった。このとき真剣に議論されたのが、この問いであった。
「オールブラックスとは何か」