共感力が高いからこそ。その優しさをうまく育むには他者との境界意識も大切です
「他のきょうだい(お兄ちゃん)を𠮟っていると、そばで聞いているだけで繊細な弟のほうが泣き出してしまいます。𠮟った当人は能天気でぽかんとしているのに。心の中で何が 起きているのでしょうか?」
「小学1年ですが、同じクラスの子が先生に忘れ物を注意されたらしく、自分も忘れ物を して怒られるかもしれないと、しつこいほど言い続けます。慎重に準備するのはいいけれ ど、してもいない忘れ物をするかもするかも、とこだわっているのを見ると、『ちょっと 病的な神経質さでは?』と思ったりします」
感情反応が強く、共感力が高い。これは典型的なHSPです。
自閉スペクトラム症でも同じようなことは起きます。他の人のことは関係ないという感じでマイペースを貫き、まわりに気を配らないのですが、過剰同調性として起こることがあります。
この2例は、叱られたお兄ちゃんの気持ちや、先生に注意されたクラスメイトの気持ち を感じとるだけでなく、共感力や同調性が高すぎるために自分も悲しくなったり、不安に なったりしているのでしょう。相手の身になる共感だけでなく、相手の感情が勝手に入り 込むのではないかと思います。
相手と同じものが自分にあると共鳴する。これを共感といいます。たとえば、同じ経験 があると「それ知っている、やったことある、行ったことある」と話がはずみます。
共感性というのは、前にも述べたように音叉にたとえられます。敏感な子は体内に音叉 をたくさん持っているようなものなので、いろいろなこと、いろいろな人に対して、けっ こう深く共感しやすい傾向があります。
一方、相手と同じ経験もないし、同じ気持ちを持っているわけではないのに、自分の中 に相手が侵入してきてしまうという状況があります。本来、自分と他者との間には「境 界」があります。自我によって自他の境界を区別し、自分を守ろうとします。ところが、その境界が薄い人がいるのです。それは自我がきちんと育っていないため、自分とは関係ないものとして線引きができない。自他の境界線があいまいなのです。
この場合、自分の中に共感がなくても、相手の思考、感情、行動がなだれ込んできてし まいます。境界が薄いために、相手の侵入を許してしまうのです。
これは共感性とは違っていささか問題で、「過剰同調性」といいます。
共感力の高いHSCには、人の気持ちを読み、人に合わせようとするところがあります。 けれども、成長の過程で心の傷やトラウマを抱えるようなストレスフルな環境にさらされ、 自我がうまく形成できなかったりすると、過剰同調性が高くなってしまうことがあるので す。
このあと第3章で紹介する症例の中には、自分が自分でなくなってしまう「解離」とい う症状を引き起こした人たちの話が登場しますが、解離が起きるのも境界が薄いことが大 きな原因です。解離は自分以外のものが入ってきて乗っ取られてしまうような現象です。
これはHSPという気質を持っているからなるわけではなく、対人関係のあり方に問題 をはらんだ環境の中で、自意識に対して認知のゆがみが生じ、過剰に自己抑制を強し いられ るような状況がリスク要因になると私は考えています。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。