書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
ふと私は走り出した
学生時代、今から20年近く前か、まだ酒の飲み方がしっかり分かっていなかったのだろう、愚かなことをした。仲のいい友人と男三人で浅草の居酒屋で飲んでいて、お酒が進むにつれ、私はなぜかセンチメンタルな気分になっていった。もう終電も無くなり、朝まで飲んで過ごそうという話になったのだが、一旦店を出て別の店にハシゴしてみようかというその時、ふと私は走り出し、二人を引き離して行き当たりばったりに路地を折れ、どうやって来たのか自分でもわからない小さな公園へと行きついたのだった。
当然、ほどなくして友達から電話がかかってくる。メールも来る。「どうした?どこにいる?」と。「変な公園にいる。どこだかよくわからない」みたいな返事を返す。本当に恥ずかしい話なのだが、なんだか自分を探して欲しくなったのである。友人にすれば、まったくわけのわからぬ気味の悪い話である。それでも友人は懲りずに捜索を続けてくれて、「何か目印ある?」「〇〇って書いた看板が見える」みたいな、めちゃくちゃ面倒なやり取りの末、滑り台の上に座っている私を見つけてくれたのだった。公園に近づいてくる二人の「あ、ここじゃない?」「おーい!」と名前を呼ぶ声が聞こえた時、うれしくて涙が出た。
当然のことだが、友達は「なんだよ?意味わかんねえ」と迷惑がり、改めて居酒屋を探しながら歩く途中「好きな女の子を見失って探すとかならまだしも、なんでお前を探さなきゃなんねえんだよ」と苦笑していた。
恋とか青春とかでもなく、ただいきなり酔っ払って探して欲しがる。なんとドラマ性ゼロの青臭さであろうか。自戒の念を込めてここに書いた。そんなことはこの時だけで、今は酔っても走り出さなくなったので許して欲しい。
酒癖の悪い男
もう一つ、かくれんぼの思い出がある。そっちはやむにやまれずというか、仕方のないことだと思っている。10年ほど前、中野で飲んでいて、確かそれも私ともう二人、男三人だった。そのうちの一人がなかなかに酒癖の悪い男で、最初は和やかに飲んでいたのだが、だんだんと話が説教くさくなり、目が座ってきたと思ったら「おい、飲みが足んねえぞ!」と私のグラスにドバドバと酒を注いでくるような具合になった。これは、このままの調子でいくとロクなことにならないなと直感した。
「今日は帰って用事があるから、早めに帰ろうかな」と私は切り出したが、そういうのが一番相手の気に食わないようだ。「いやいやいや、あり得ねえ!ぜってー無理。俺がすっげー好きなスナックあるから連れてく、オーヤンフィーフィーみたいなママ。面倒だからタクシーで行こう。ぜってえ帰らせねえ」ガシッと掴まれた肩が痛い。ゴリラ並の握力なのではないか。
気持ちを切り替えた。これは一回、降参してついて行くフリをして逃げるしかない。「わかったよ。じゃあとりあえずここは出ようか」「だな。そうだな。お前、まだ酒入ってるじゃん。それ早く飲んで」「あはは、まあまあゆっくり」みたいな感じでとりあえず会計までたどり着いた。割り勘分を支払い、「タクシー乗るなら大通りだな」と彼が私の前を先導しようとしたその時……今だ!逆方向に一気にダッシュである。すると、忘れられないのだが、彼はすぐさま私の動きに気がつき、大声で言った「逃げたぞ!追いかけろ!」。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。