兄弟なのに似てない」現象には、数学が関わっていた

身の回りを見渡すと、日常は不思議なほどに美しい「数」の法則にあふれている。そんな「日常にひそむ うつくしい数学」を、京都大学物理学専攻の著者が、小学生でもわかる平易な文章で解説。難しい数式は読み飛ばしても大丈夫。本連載は「日常にひそむ うつくしい数学」(朝日新聞出版)よりお届けいたします。

「兄弟なのに似てない」現象には、数学が関わっていた


みなさんの知り合いに、双子や三つ子はいますか? ご自身がそうだという方もいらっしゃるかもしれません。 一卵性双生児は、顔や性格だけでなく、病気の罹患率なども驚くほど似ていることが分かっています。同じ遺伝子を共有しているので、生得的な特性が極めて近いためです。けれども、一卵性双生児でない双子や三つ子、あるいは、そもそも双子ではない兄弟姉妹は、見た目も性格もバラバラです。当たり前のことのようですが、よく考えてみると、とても不思議だと思いませんか?

子が親に似るのは、親の遺伝子を受け継いでいるからです。そして子どもの遺伝子は、父親と母親の遺伝子が半分ずつ混ざって作られます。だから、目元は父親似だけど口元は母親似だとか、顔は父親似だけど性格は母親似といったことが起こります。けれども、なぜ、兄弟姉妹によって違いが生じるのでしょうか?どの子も父母から「半分ずつ」遺伝子を受け継いでいるならば、同じ遺伝子になるような気がします。

この謎を解き明かすには、遺伝子を「半分ずつ」混ぜ合わせるという言葉が、具体的にはどんな状況を表しているのかを深く考える必要があります。先に答えを言ってしまうと、「半分ずつ」混ぜ合わせるといった時の混ぜ方に、信じられないほど膨大なパターンがあるのです。それが、子どもたちの個性につながっています。

ゲノムとは何か

それでは、どうやって混ぜ合わせるのかを見ていきましょう。人間の体は、いろいろな遺伝情報が元になって作られていますが、それらの遺伝情報の全てを、まとめて「ゲノム」 と呼びます。例えば、あなたがあなたであって別の人でないのは、あなたのゲノムが他の人とは異なるからです。では、ゲノムの中身はどうなっているかというと、「染色体」と呼ばれるまとまりに区切られています。

染色体はイモムシのような細長い形をしていますが、拡大して細かい構造を見てみると、細い糸のようなものが絡まりあってできていることがわかります。この糸のようなものは「DNA」といって、生物の遺伝情報を蓄える機能を持っています。DNA は、4種類の「塩基」と呼ばれる物質が鎖のように連なって作られているのですが、この塩基の配列によって遺伝情報を記録しています。

図表4-f ヒトのゲノムの構造

①細胞核:ヒトの細胞核の中には23対(46本)の染色体がある
②染色体:DNAは染色体の中に折りたたまれた状態で収まっている
③DNA:塩基対がハシゴのように連なり、2重らせん構造を持つ
④塩基対:ヒトの塩基対(グアニン〔G〕とシトシン〔C〕、アデニン 〔A〕とチミン〔T〕)は約30億あり、ここにたくさんの遺伝情報が格納されている

人間の細胞核の中にあるDNAをつなげていくと、全長2mにもなるそうです。それだけ長いので、何とかしてコンパクトに折りたたまないことには、細胞核に収まることができません。そのためDNAは、染色体という単位に分かれて、小さく折りたたまれているのです。人間の細胞核の中には、全部で46本の染色体があります。それらは二つずつペアになっているので、23ペアと数えます。

ペアになっている染色体同士を「相同染色体」と呼びますが、相同染色体は、共に同じ種類の遺伝情報を担っています。 つまり、遺伝情報がダブっているわけです。そうすれば、化学物質や放射線などの影響で片方がダメになっても、もう片方が無事ならば体の機能に異常が生じません。

より具体的に言うと、細胞の中では、化学物質や放射線などの影響によっ て、常に遺伝子が損傷しています。相同染色体同士は同じ機能を持っていて、塩基配列も非常に似通っているので、ペアの一方の塩基配列が一部損傷した場合は、もう一方の対応する箇所から塩基配列をコピーしてきて修復しているのです。 これを「相同組換え」と呼びます。

つまり、相同染色体があるおかげで遺伝子異常を抑えることができ、個体としての生存確率が上がるのです。

無限の多様性

ここからが本題ですが、相同染色体には、もう一つ重要な役割があります。それは、生まれてくる子どものゲノムに多様性を持たせることです。人間は誰しも、たった1個の受精卵からスタートします。受精卵は、父親の精子と母親の卵子が結合することで作られますが、精子や卵子は、体の他の細胞と違って、それぞれ23本しか染色体を持っていません。

なぜかというと、子どもも父親・母親と同じく、46本の染色体を持たなければならないからです。精子・卵子それぞれが 23本ずつ染色体を持っていれば、受精卵になった段階で合計46本持つことになり、ちょうど数が合うわけです。

体の中で精子や卵子が作られるときは、もともと持っている46本の染色体から、23本を選ばなければなりません。そのため、相同染色体のペアのうち、どちらか一方がランダムに選ばれていきます。23ペアから1個ずつ選ぶので、23本の染色体セットができ上がるのです。

さて、ここでクイズです。受精卵のゲノムを作る方法は、 何通りあるでしょうか?この先を読む前に、少しだけ考えてみてください。

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文系でも分かる「うつくしい数学」の秘密を、京都大学卒の著者が解き明かす

この連載について

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日常にひそむうつくしい数学

冨島佑允

身の回りを見渡すと、日常は不思議なほどに美しい「数」の法則にあふれている。知っているようで知らなかった日常の不思議。身の回りに隠された数の神秘。そんな「日常にひそむうつくしい数学」を、京都大学物理学専攻の著者が、小学生でもわかる平易な...もっと読む

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10ricedar っあーーー、、、エレガント、、 https://t.co/eH85jrBz0I 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

yestarina 「エレガントすぎて、人間の技術者やシステム設計者が自信を失ってしまうレベルです。」 休日に出先でビールを飲み、高速バスで帰る途中で読んでうっとりするのに相応しい記事。 https://t.co/gkuZ2sPYcq 約1ヶ月前 replyretweetfavorite