混ざらない」問題【パリッコ】

おいしいおつまみでちょっと一杯。でもちょっと待って。なにげなく注文しているあの定番おつまみ、よく考えてみると、なんか釈然としない。今回はパリッコさんによるおつまみ「混ざらない」考です。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

まぐろの山かけ

「まぐろの山かけ」ってあるじゃないですか? 居酒屋の定番メニューですよね。「あれに目がない!」って酒飲みの方や、「うちは山かけ一本でやってるよ!」っていう大将にはちょっと面目ない話なんですが、あれ、ぶっちゃけ、混ざらなくないですか?

よくあるパターンだと、ブロック状に切ったマグロのぶつにすりおろした山芋をかけ、上にワサビや海苔なんかが乗せてある。ここに醤油をかけ、全体をよ~く混ぜる。よ~く混ぜたのち、いざ、とマグロをひとかけつまみあげると、「なんの思い入れもありません」といったそぶりで、山芋がつるんつるんと皿に落ち戻ってしまう。マグロを口へ放り込み、あわててお皿を持ちあげ、山芋をすすりこんで口中で融合させるんですが、だったら「マグロ刺し」と「とろろ芋」が別皿でもよくない? いや、わかるんですよ。味の組み合わせとして美味しいことは。「別皿にするんだったらひとつの皿に盛っちゃえばよくない?」という意見もわかる。ただね、こんなにも混ざらないのに、「まぐろの山かけ」というメニューとして堂々と定番化していることに、若干の違和感を感じてしまう、面倒な酒飲みだっていうだけの話です。自分が。

「まぐろ納豆」もけっこう近いものがある。これが、魚の切り身を小さめに刻み、薬味もたっぷりと加わる「ばくだん納豆」になってくるとぜんぜん違う。よく混ざる。マグロユッケも超混ざる。つまり、「混ぜる」という行為において、食材を最低限細かくしておくのは、必要な工程であると思うのです。

ただ、同様の理由で長年「いか納豆」も敬遠してきたんですが、とあるメニューの少ない酒場で、必要にせまられ頼んでみたら、これが想像以上によく混ざり、味も大変けっこう。それ以来大好物になったりもしているので、一概には言えないんですけどね。

月見つくね

僕が「混ざらないな~」と感じるものは他にもあります。例えば「月見つくね」。ちょっとこだわった焼鳥屋さんへ行くと、他の串は120円くらいなのに、つくねだけがその倍の240円くらいすることがある。そういうつくねは他の串に比べ、巨大であることが多い。ちょっとしたハンバーグくらいある。で、専用の細長い皿に乗って、1本単体で出てくる。ちょっと威張っていると言ってしまってもいい。そういうお店の場合、メニューの横に「卵黄トッピング」の文字を発見することが多い。発見してしまうと、トッピングもせずにはいられない。だって卵黄ですよ? 濃厚甘辛焼鳥ダレと卵黄のハーモニー、うまいに決まってるじゃないですか。

他の串よりもたっぷりと時間を使って月見つくねが焼きあがり、いよいよ目の前に到着する。テンションは最高潮です。卵黄を箸でつっついて破裂させ、とろりと広げる。そこにタレをまとったつくねをちょんと触れさせる。ぜんぜんつかない。意地になって串を卵黄に押し当ててグルグル回転させ、やっと薄っすら表面がコーティングされた? って程度。「混ざった」とは言えません。想像していた、つくね、タレ、卵黄の三位一体にはとうてい及びません。1本食べ終わり、皿に残されたのは、今になってやっとタレと融合したたっぷりの卵黄。これをずるずるとすするのも下品ですし、そうだ、焼鳥を何本か追加してこれにつけて食べよう! なんて思いつき、店員さんを呼び止め注文する。すると気のきく店員さんは同時に、「空いてるお皿お下げしますね~」と、卵黄ダレの皿を持っていこうとしてしまう。そこで「あ、ちょっと、まだ使うんで!」と言える空気の店もあれば、言えない空気の店もある。言えなかった時の切なさといったら……。本当に気のきく店員さんって、あそこで「お下げしてもいいですか?」と聞いてくれる人なんだよな、と、しんみりしながら食べる、追加焼鳥の切なさといったら……。

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“よむ"お酒

パリッコ,スズキナオ
イースト・プレス
2019-11-17

この連載について

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パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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