夫婦の価値観の違い
ふだん仲良くしている夫婦でも、価値観の違いはあるものだ。
私たち夫婦の場合、幸いに人生観とか多くの価値観は一致しているのだが、徹底的に異なるところがある。
夫は何人かのアポロ宇宙飛行士とも親しくしているアポロ計画関連品の蒐集家で、彼が購入したロケットエンジンとかが突然わが家にやってくる。そのほかにもクラシックのランドローバーとかビンテージの腕時計とかグレイトフル・デッド関連品とか、情熱的に愛しているものが多すぎる。「蒐集というのは病気なんだ。病気なのだから仕方がない」と開き直る重症のコレクターである。
幸いなことに私には収集癖はない。ファッションは好きだが、「高いブランド」とか「皆が持っているもの」にはまったく興味がない。むしろ、あまり他人が知らないユニークな美を見つけ出し、なるべく安く手に入れるのが趣味だ(大阪人タイプ?)。熱心に集めているのは、スーパーのオーガニック野菜を束ねてある極太輪ゴムくらいだ(いろんなことに利用できて便利なのである)。まだ使えるモノを捨てるのは嫌いだし、必要ないモノが家に増えてごちゃごちゃするのはさらに嫌いな性格である。
夫の「病気」を極めた自宅アポロ計画博物館と妻が集めた有機野菜を束ねる輪ゴム
また、夫は誰にも遠慮せず「自分が楽しいこと」を優先する。仕事も好きな人なので猛烈にするが、午前2時半起床で「忙しいから話しかけないで」というくらい働いていたかと思うと、ちゃっかりその夜には(これも平均とはかけ離れて情熱的な)ライブ・コンサートに出かけてしまう。つまり、楽しむための努力は惜しまないタイプだ。
では、私が優先することは何だろう?
胸に手を当ててじっくり考えてみたら、「面倒なシチュエーションや問題、それによるストレスを避けたい」という欲求がかなり強いことがわかった。旅行や冒険が好きなのに遊びの計画をほとんど入れないのは、原稿の締切に遅れて誰かに迷惑をかけることを想像するだけでストレスになるからだ。
自宅ウエディングに必要な意外なモノ
こういった私たちの性格や価値観の違いは、結婚式の計画でも最初から際立った。
娘の結婚式について、最初に取り組むチェックリストを作ったことを前号で書いたが、親の私たちの最も重要な責務は「ベニュー(式場と披露宴の場所)」を用意することだ。
ベニューの責任者として私が真っ先に行ったのは、「テントの予約」である。
増改築でオープンなデザインになったとはいえ、参列者120人+シェフとお手伝いを一箇所に集められるほどわが家のリビングルームは広くない。だからアメリカでよくある裏庭を使う「バックヤード・ウエディング(裏庭でのウエディング)」をすることになる。
調べてみると、ニューイングランド地方はよく雨が降るのでバックヤード・ウエディングではテントを張るのが常識らしい。式の希望日である6月は結婚式が多いだけでなく、卒業パーティも多いので、早めに抑えておかないと予約が埋まってしまうという。それを知って慌ててテント業者を探した。インターネットを駆使して利用者の評価が最も高い業者にメールし、庭の広さを測って何度かやり取りした後で夫にプレゼンして許可を取り、テントとテーブル、椅子を予約した。
テントレンタルのオーナーから「ふつうの人は目前になってから問い合わせるが、そのときにはもう予約満杯で対応できない。1年前に予約するあなたは賢い!」と褒めてもらい、結婚式の2ヶ月前には「あなたはとても対応が礼儀正しくて良いお客さんだったので、プレゼントとして一番高級な椅子にアップグレードしてあげました」というメールをいただいた(実際に素敵な椅子だった)。
次に私が予約したのは「トイレ」である。
結婚式が趣味の義母に乗っ取られないように情報を右の耳から左の耳に「はいはい」と流していた私だが、「トイレはどうするの?」という質問には真剣に耳を傾けた。わが家にはTOTOのトイレが3つあるが120人の客に対応できる数ではない。他のことで頭がいっぱいでそこを見落としていた。
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