カウンセリングという心の戦場、苦い思い【第16回】

今回は趣向を変えて茂木健一郎さん・長谷川博一さん、それぞれのモノローグをお届けします。テーマは自己と他者──。脳科学者の茂木さんが長谷川さんとの「対話」に臨んだ理由とは? 臨床心理学者の長谷川さんは、カウンセリングの現場で自身が直面してきた、のっぴきならない問題について赤裸々に告白します。
話題の書籍『生きる──どんなにひどい世界でも』を連載で全文公開。(火・木・土更新)

photo by 飯本貴子

モノローグ/忘れている「自分」と結び合う 茂木健一郎

 難しい時代を迎えている。驚くこと、悲しいことが毎日のように起きてしまうだけでなく、そんなことに対する私たちの「心の反応」もおかしくなっている。

 立場や背景の違いを超えて想像したり、共感したりすることこそが、私たち人間の脳の可能性なのに、簡単に他者を決めつけたり、切り捨てる人が増えてきているのではないか。

 脳の中では、他者と自分は「鏡」のように映し合っている。他者への回路が細くなってしまうということは、自分自身の心もまた痩せ衰えるということを意味する。

 豊かさや幸せをつかむためにも、他人をこそ想わなければならない。

 長谷川博一さんが、世間を揺るがすような事件などにおいて、安易に決めつけずに他者への理解や想像力を育む仕事をされてきたことを、僕は尊敬してきた。とりわけ、他者と自分の間に壁をつくりがちな現代の風潮の中で、長谷川さんのお仕事には大きな意味があると言えるだろう。

 今回の対話にあたり、そのあたりのことをお話ししたいと思っていた。そして、その目的は達せられたと思う。長谷川さんとの対話は、深く響き、学びの多いものだった。僕の心は次第に不思議な場所に運ばれていった。

 僕は学生時代、大学の学生相談所のカウンセラーに会いに行き、臨床心理学の手法の一つである「箱庭療法(※50)」を経験したことがある。当時は、人と人とが出会うことを重視するカール・ロジャーズ(※51)のテクストを熱心に読んでいた。

 そんな、人の無意識に興味を持っていた頃の自分が、長谷川さんとの対話を通してよみがえってきた。その過程で、気づかぬうちに、思わぬ秘密をもらしてしまっているのかもしれない。

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生きる──どんなにひどい世界でも

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生きる──どんなにひどい世界でも

茂木健一郎 /長谷川博一

「生きづらさ」の正体は何なのか? 現代社会の病理はどこにある? 脳科学者と臨床心理学者が出会ったとき、いのちが動きはじめ、世界の見え方が変わります──。7月19日発売の書籍を全文公開。

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コメント

megamurara 「忘れてしまった過去の自分」と「未知なる自分」が気になりました。 9日前 replyretweetfavorite