photo by 飯本貴子
原石のような子どもたちと 彼らを取り巻く「リアル」
茂木 僕ね、中高生と話すと、意外とまだ原石のような人たちはいるんだなと思うんですよ。
でも、彼らが世の中に出ていくまでに、大学に行って就職していくときに、どこかでその原石の輝きが失われてしまうんじゃないかと思う。
長谷川 そうですね。中学生くらいの子も、最初は警戒してなかなか原石の輝きを見せません。大人を相手に様子を見ながら「あ、この人はいいんだ」と感じてからブワーっと出してくるような感じがします。
茂木 僕はいろんな中学校や高校に行くと、アニメの話を聞くんです。そこに彼らは一番リアリティを感じているようです。おそらく精神分析的にも興味深いものがいっぱいあると思うんですよ。特に深夜アニメには、日本の若者にとってのリアルな世界があると期待しています。
受験のための勉強はリアルではなく、単にゲームだということは、子どもたちはもうわかってしまっている。一生懸命に「日本は良い国だ」と思おうとしているけど、その先にある仕事も、アメリカのスペースX(※44)や中国のデジタル革命のすごさに比べると、イマイチいけてないのかなと、なんとなくわかっている。一方で、深夜アニメのイノベーションの速さと現場での能力発揮の厳しさは、小中学生ならもうわかっています。学校の先生はそれを知りません。
公式に認められた大人の社会には入れてもらえないけど、アニメの世界は、子どもたちにとっては大事な社会なんですよ。そういうアニメについてしゃべるとき、突然、彼らは火がついたように目が生き生きとしてくるんです。子どもだったら『アンパンマン』とか『おしりたんてい』、最近の女子だと、『プリキュア』。それが中高生くらいになると深夜アニメになっていく。
深夜アニメって、物語の設定が、現実の苦しさやつらさをSF的なものや別世界に投影していて、ユングっぽい(※45)ところがあるなと思います。だから魔法使いとかが出てくる。大人が公式に認めている物語の世界よりも、彼らにとっては本気になれる場所なんじゃないかと思います。
長谷川 本当にそう思う。でも、アニメをつくっているのは大人ですから、大人の中にもやっぱり、そういう子どもの頃から秘めていた願望はあるわけですよね。魔法やパラレルワールドのような、「魅力を見出せない現実世界とは異質の別世界」を創出し、それが世界的にも受容されつつある。投影が普遍的なところは、確かにユングにつながるのかもしれません。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。