動きだした消費者・企業・漁業者・行政 魚の消滅を食い止められるか

これまで魚に対しては無関心だった日本の消費者が、少しずつ変わりつつある。時を同じくして旧態依然とした漁業に新しい風も吹き始めた。危機にひんした日本の「魚」を守れるか。

(前回「生産・流通の効率性は世界最低 漁業を蝕む根深い構造問題」の続き)

 「ウナギ絶滅まであと一歩、頑張りましょう!」。今年7月、「ウナギ絶滅キャンペーン」という奇妙なツイッターアカウントが登場した。ウナギの資源枯渇のニュースや、小売り・外食の土用の丑の日のキャンペーン情報を列挙してはこう皮肉った。あっという間に1万4000人ものフォロワーが付き、1万以上のリツイートを集めたこともある。これまで一般には広がらなかった水産資源問題への関心が高まっていることを示した事件だった。

 行動するシェフ集団も現れた。水産資源の状況についての勉強会と情報発信を行う団体、シェフズ・フォー・ザ・ブルーだ。「高級レストランのコースメニューで、シーフードは重要な差別化要素。魚が調達できなくなってきているのは死活問題で、シェフの立場からできることをしようと考えた」と代表の佐々木ひろこ氏は話す。フレンチ、中華など、ミシュランの星付きレストランを含む有名店のシェフ30人が集まり、水産資源管理に取り組む漁業者と連携するなどの活動を行っている。

持続可能な漁業へと改革に立ち上がる
若手漁業者たち

MSCとASC認証商品だけで構成した魚売り場「フィッシュバトン」を67店舗で展開するイオン

 流通も動いた。イオンはまだ絶滅危惧種ではないインドネシアウナギに対して、2023年までにMSC(海洋管理協議会)認証とASC(水産養殖管理協議会)認証を取得することを宣言。これらは資源管理や持続可能な漁・養殖がなされている水産物に与えられる国際認証だ。「20年までに取り扱い水産物の20%をMSC認証品にするが、この目標はあくまでも通過点」(松本金蔵・イオンリテール水産商品部長)という。

 ちなみに、ウォルマートやコストコなどの米大手小売りでは取り扱う水産物はほぼ100%MSC認証を取得している。「欧米では小売企業が売る水産物が持続可能な手段で獲られているかどうかにNPOの厳しい監視の目が向けられている」(阪口功・学習院大学教授)からだ。日本でも消費者の意識が少しずつ変化するにつれ、ようやく流通も動き始めた。

 セブン&アイ・ホールディングスも、PB(プライベートブランド)のめんたいこなどでMSC認証品の取り扱いを始め、今後品目を増やす計画だ。「このままでは日本の水産業もわれわれも共倒れになる。持続可能な水産業を支援する取り組みを確実に続ける」と同社幹部は強調する。

 大手2社だけではない。MSC認証品を販売するために必要な加工流通認証(COC)を取得する小売業の数が急増している。

 さらに漁業者も動いた。MSC認証の取得に向け資源管理を行い、コストを払ってでも持続可能な漁業に取り組む漁業者が増えている。宮城県女川町でギンザケの養殖を行うマルキンもその一社だ。

養殖ギンザケでASC認証取得を目指すマルキン。取得すれば国内の養殖魚では初めてとなる

 同社は宮城県内で最も早くサケの養殖を事業化した会社だ。だが、国産養殖のサケは、輸入品に押されて劣勢にあった。特に単価の高い刺し身は圧倒的に輸入品が多い。ならば逆に海外への輸出で実績を上げて、ブランド価値の向上を図ろうと考えたのだ。輸出のためにはASC認証取得は必須条件。そこで、資源管理を行いトレーサビリティーを明確にし、その取り組みの具体的な内容も開示することにしたのである。

 この取り組みに西友が賛同し、資金援助や売り場での取り扱いなどで協力を得ることができた。目指すのは19年にASC認証を取得して、女川ギンザケが20年の東京オリンピックで調達される食材に選定されることだ。

 女川の事例は、トレーサビリティー管理や資源管理にしっかり取り組むことが消費者や小売企業に付加価値として認められれば、立派に他との差別化要素になり得ることを示している。

 高齢化や旧態依然とした制度に悩まされてきた漁業の構造問題にも、新しい風が吹きつつある。

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週刊ダイヤモンド 2018年11/24号 [雑誌]

ダイヤモンド社,週刊ダイヤモンド編集部
ダイヤモンド社; 週刊版
2018-11-19

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ニッポンの「魚」が危ない

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かつて日本で水揚げされる魚の半分を取り、消費市場としても世界一のお魚王国だった日本。しかし水産資源枯渇と日本の漁業が抱える構造問題のくびきにとらわれ、その王国は消えて久しい。日本の魚は、どこへ行くのか。 ダイヤモンド編集部・鈴木洋子 ...もっと読む

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