天才のつくり方

第20回】この時代、学問は大学だけのものではない。

脳科学者の茂木健一郎さんと、理論物理学者で28歳にして楽天株式会社役員の北川拓也さん。二人の天才による人気対談シリーズがついに再開! ロングビーチで開催されたTED Conferenceに参加し、人生を見つめなおした茂木さん。ハーバードの大学院を卒業し、日本企業で働き始めた北川さん。環境の変わった二人が最初に話したのは、「GoogleX」などの先進的なプロジェクトが体現する、学問の世界の変化についてでした。

学術の集積が現代のゴールドラッシュを生む

茂木 ちょっと久しぶりだね。おれ、この間ボストンに行ってきたんだよ。

北川 Twitterで拝見しましたが、たぶん僕も同じ時期にボストンにいました。ハーバードの大学院の卒業式に出席していたんです。

茂木 そうだったんだ! 今回の卒業式のゲストスピーチは、アメリカの世論を動かしてきたトーク番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」の司会者、オプラ(スピーチ動画はこちら)だったんだってね。でも実はこういうゲストの話って、卒業生はあまり聞かないって聞いたんだけど。

北川 ああ、僕、聞かなかったです(笑)。両親も来ていたので、彼らの予定に合わせて、ゲストスピーチの前に退出したんですよね。

茂木 あれを聞いてるのはOB・OGが大半らしいね。いやあ、おれ、ボストンに行ったのは10年ぶりくらいだったんだ。いいね、やっぱり。

北川 いいでしょう。

茂木 ボストンって、人口が62万人くらいしかいないんだけど、住宅価格がいますごく上がってるらしいね。

北川 そうですね、上がってます。高級住宅地化しているみたいです。

茂木 なんでボストンの住宅価格が高いかっていうと、多くの大学や研究施設があるからなんだよね。他には特別な何かがあるわけでもないし、人口62万人強って、規模的には千葉県の船橋市とか鹿児島市とかと同じくらいだもん。規模じゃなくて、学術の集積が現代におけるゴールドラッシュをもたらすんだって、改めて感じた。北川はあそこに何年いたんだっけ。

北川 9年です。僕も今回、卒業式のために行って、改めていいところだと感じました。一応これを区切りにハーバードを離れるということで、担当教授とお話ししたんです。教授は「タクヤは何らかのかたちでアカデミックに戻ってくるだろう」とおっしゃっていました。そこには確信があるみたいです。

茂木 へえ、なんでかね?

北川 いまアカデミックの世界は、ティーチングスタイルも含め、インターネットでどんどん変わっています。だからこそ、まったく違うかたちでアカデミックに戻ってくる可能性があると。そして、僕もそれはかなりありうる話だと思っています。

茂木 なるほどね。それすごくわかるな。その上で、おれは北川が楽天に在籍しているのも、アカデミックじゃなくなったとはぜんぜん思わないよ。なぜかというと、いまのアカデミアって大学だけにあるわけじゃないから。ボストンから帰ってくる機内でアメリカの雑誌を読んでたんだけど、それにGoogle社内で実験的なプロジェクトを推進する「Google X」の特集をやっていてね。

北川 ああー。

茂木 もともとはリサーチラボラトリーだったんだけど、それがもう手垢のついたイメージだからGoogle「X」として、なにかよくわからない感じを出したんだって(笑)。Google Glassもそうだけど、人がまったく運転しなくても安全に走る自動運転カーや、気球を使ったインターネット網構築プロジェクトなどを進めてるらしい。

北川 気球ですか?

茂木 巨大なバルーンにWi-Fiをくくりつけて、高度20kmくらいにいくつも飛ばし、地上のアンテナとインターネット・プロバイダを結ぶんだ。

北川 すごい、そうすると世界のどんな僻地でも、インターネットが使えるようになるんですね。

茂木 その通り。いろんなところから大学の教授が引きぬかれて、まだ世の中には明かされていないプロジェクトもたくさん進めてるみたいだね。

コンプレックスを明らかにすることで、ソリューションに近づく

北川 うちの教授からはGoogleXで量子コンピュータをつくっていると聞きました。そこは僕らのトピックなので情報が入ってきたみたいです。

茂木 Googleは従来の意味でのアカデミアではないけれど、やっていることはアカデミアだよね。アカデミア in action(実行して)という感じ。本当の学問がそこにあると思う。車の自動操縦にしても相当な技術がないとぶつかってしまうし、普通の大企業はそんな危ないことはなかなか試せないよ。
 でも、日本のネットベンチャーには、今はまだそういう学問的な雰囲気って、あんまりない感じがするんだ。ノリが先行しているというか。

北川 ああー……。

茂木 あ、でも、LINEとかは、見え方はすごくポップだけど、情報論的なネットワークの負荷などでいうと、けっこうな技術が使われているよね。そういうことをやるには、やっぱりある程度キューッと詰まったような、知的な密度が必要になってくると思う。

北川 日本のITベンチャーの技術的な部分は、日本の大学でまじめに勉強してきた理系の人たちが支えていると思います。楽天のセールって、1日でウン十億、ウン百億と売り上げたりするんですけど、その負荷ってハンパないんですよ。それを支えるバックエンドの優秀なエンジニアがいるから、成り立っているんです。そのエンジニアは大学で、きっちり教科書を読んで、Formula(公式)が出てきたら自分で証明しなおしたりしながら、めちゃめちゃ中身が詰まった勉強をしてきています。まじめなんですよね。日本人はやっぱりそこが強いと思います。

茂木 そうだね。国立大の理系の学生なんかは、イノベーションとはまた違う方向性だけど、堅実に勉強するのが得意な感じがする。

北川 Googleはテクノロジーありきのイノベーションを、とにかく推し進めてきた印象があります。僕はその源泉がコンピュータサイエンティストやエンジニアのコンプレックスにあるんじゃないかと思ってるんです。それに対して楽天は、むしろ人間のエモーションを出発点にしている。かつ、テクノロジーにコンプレックスを持っている人たちががんばっている。逆の方向性なんです。

茂木 なるほど、それおもしろいね。コンプレックスがイノベーションのきっかけになることって、ずいぶんあると思う。そして、そのコンプレックスをidentify(明らかにする、見極める)できることが大事なんだ。潜在化している場合がやっかいなんだよね。前も話に出たけれど(第14回)日本の欧米コンプレックスとかさ。アジアの近隣諸国に対するいろんな態度とか。

北川 ああ、たしかに表立ってコンプレックスがあるとは言わないですね。

茂木 でも確実にコンプレックスがあるんだよ。日本語でコンプレックスって言うと普通Inferionity complex(劣等感)のことを指すけど、コンプレックスっていう言葉はもともと、心のなかにすごく厄介に絡み合った要素があって、それをなかなか解きほぐせないことを指す。対外関係においてややこしいことが起こっているのは、全部コンプレックスがもとになっていると僕は思う。だからこそ、コンプレックスを明示化できている人は、ソリューションに一歩近づいているんだ。

(次回へ続く)

ケイクス

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天才のつくり方

茂木健一郎 /北川拓也

日本経済が停滞して久しい。一方で、アメリカではIT産業の新しい成功モデルがどんどん生まれている。この違いはどこにあるのか。 ここで登場するのが2人の天才。高校卒業後、8年間ハーバード大学で活動している理論物理学者・北川拓也。一方、1...もっと読む

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コメント

nao_pure_nao コンプレックスがイノベーションのきっかけになる→この時代、学問は大学だけのものではない。| 約5年前 replyretweetfavorite

k_motoyama 面白い。というか北川くんは楽天役員になったんだ。面白いことしかけてほしいな。 約5年前 replyretweetfavorite

NEeNoo3 『だからこそ、コンプレックスを明示化できている人は、ソリューションに一歩近づいているんだ。』 5年以上前 replyretweetfavorite

sadaaki 帰ってきた天才対談、大学について、学問についてです。相変わらずおもしろいですよ。 5年以上前 replyretweetfavorite