巻きつくとだんだん硬く木になって独占欲という紫の実
前世は鳥だったのだろう。
ものごころがついた時から、鳥が好きで仕方なかった。
手乗り文鳥の親が死んでしまった雛に、注射器のような器具で粥状の餌をやっていた時、その雛の食道が透けて見え、一羽の命を手にしていることに昂りを覚えた。
殺される可能性がある相手に、命を預ける生き物は、食べてしまいたいくらい可愛く、健気で哀れだ。
その雛のことを思い出したのはアケビを見た時だ。
写真家の卵の徹也は、居候だ。去年まで画家を目指していたが、挫折して夢を写真家に変更した。二十歳で知り合ってから六年間、彼の夢が叶ったことはない。
一日一つの被写体を、鼠を捕まえた猫のように持って帰ってくる。
昨日は錆び付いて壊れた三輪車で、おとといは干からびた蜥蜴だった。
今日は、アケビ。
徹也はデジカメで、食卓の上のアケビを撮る。
写真の知識の全くないわたしでも、彼が本気でないことが分かる。居候の言い訳としてのアクションなのだ。
わたしがシャワーを浴び終えるのを待ちきれずに、彼は裸でバスルームに入ってくる。
わたしは、紫の皮で包まれたアケビの、腸詰めのような種を思う。
手乗り文鳥の雛の食道のような、男性性器のような、子宮の入り口のような。
湯を浴びながらの性交は、鳥になる前戯だった。
翌朝、徹也がいなくなっていた。
わずかな彼の所持品もデジカメもなかった。
テーブルの上のアケビが、孵化して一羽の真っ白な雛鳥になっている。
べたついた雌蕊(めしべ)を進む花粉管トンネルは雄の性欲の軌道
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