九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【アケビ】

殺される可能性がある相手に、命を預ける生き物は、
食べてしまいたいくらい可愛く、健気で哀れだ。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
※※※この連載が書籍化します。8月27日発売。九螺ささら『きえもの』※※※

 巻きつくとだんだん硬く木になって独占欲という紫の実




 前世は鳥だったのだろう。

 ものごころがついた時から、鳥が好きで仕方なかった。

 手乗り文鳥の親が死んでしまった雛に、注射器のような器具で粥状の餌をやっていた時、その雛の食道が透けて見え、一羽の命を手にしていることに昂りを覚えた。

 殺される可能性がある相手に、命を預ける生き物は、食べてしまいたいくらい可愛く、健気で哀れだ。

 その雛のことを思い出したのはアケビを見た時だ。


 写真家の卵の徹也は、居候だ。去年まで画家を目指していたが、挫折して夢を写真家に変更した。二十歳で知り合ってから六年間、彼の夢が叶ったことはない。

 一日一つの被写体を、鼠を捕まえた猫のように持って帰ってくる。

 昨日は錆び付いて壊れた三輪車で、おとといは干からびた蜥蜴だった。

 今日は、アケビ。

 徹也はデジカメで、食卓の上のアケビを撮る。

 写真の知識の全くないわたしでも、彼が本気でないことが分かる。居候の言い訳としてのアクションなのだ。

 わたしがシャワーを浴び終えるのを待ちきれずに、彼は裸でバスルームに入ってくる。

 わたしは、紫の皮で包まれたアケビの、腸詰めのような種を思う。

 手乗り文鳥の雛の食道のような、男性性器のような、子宮の入り口のような。

 湯を浴びながらの性交は、鳥になる前戯だった。


 翌朝、徹也がいなくなっていた。

 わずかな彼の所持品もデジカメもなかった。

 テーブルの上のアケビが、孵化して一羽の真っ白な雛鳥になっている。



 べたついた雌蕊(めしべ)を進む花粉管トンネルは雄の性欲の軌道



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九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

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