驚き】ハチは数学の達人だった?!

身の回りを見渡すと、日常は不思議なほどに美しい「数」の法則にあふれている。そんな「日常にひそむ うつくしい数学」を、京都大学物理学専攻の著者が、小学生でもわかる平易な文章で解説。難しい数式は読み飛ばしても大丈夫。本連載は「日常にひそむ うつくしい数学」(朝日新聞出版)よりお届けいたします。

ハチは数学の達人だった?!


自然界を観察してみると、いろいろな「かたち」が潜んでいることが分かります。ミツバチの部屋はきれいな六角形ですし、カタツムリや巻貝はうつくしい螺旋形の殻を持っています。ほかにも、シマウマのしましまや、雪の結晶の複雑かつ規則的な形など、いろいろ挙げればきりがないぐらいです。でも、どうしてそのような「かたち」になっているのでしょう?例えば、ミツバチは、なぜ、わざわざ六角形の部屋を作るのでしょうか?人間の感覚で考えると、四角い部屋のほうが作りやすそうな気がします。

実は、その背景には、ハチならではの「経済学」が隠されています。ハチの部屋は、ハチミツをためたり、幼虫を育てたりするのに使います。いずれにせよ、なるべく広いに越したことはありません。広ければ、たくさんのハチミツをためることができるし、幼虫にとっても住みやすいからです。

けれども、ハチにとって、巣作りは大変な労力を必要とする作業です。というのも、巣はハチミツからできる蜜蝋というものを使って作られるからです。蜜蝋は、働きバチが食べたハチミツを原料として働きバチの体内で作られ、腹部にある蝋分泌腺から汗のように出てきます。働きバチは、その蜜蝋を足で延ばして巣の壁を作っていくのです。10gの蜜蝋を作るのには、なんと、その8倍の80gのハチミツが必要です。

ここで、ミツバチの世界について少し説明しましょう。蜜を集めるのは働きバチの役目ですが、巣の中には、1匹の女王バチの配下に数万匹の働きバチがひしめいています。ちなみに、働きバチは全てメスです。巣の中には数百匹のオスもいますが、繁殖のためだけに存在していて、働きバチに養われています。 働きバチの寿命は1カ月ほどです。そして、1匹の働きバチが一生のうちに集めることができる蜜の量は、たった4~6gほどに過ぎません。働きバチは、言うなれば、女王バチのために一生を捧げるキャリアウーマン集団というわけですが、彼女たちが一生かかって集める4~6gの蜜を全て使っても、蜜蝋は1gも作れないのです。

働きバチは、来る日も来る日も空を飛び回り、花を見つけては少しずつ蜜を集めていきます。土日・祝日などの休みはなく、毎日が営業日です。1匹が集められる蜜は本当にわずかですが、人海戦術を取ることで巣を維持できるだけの蜜を調達しているのです。

蜜を江戸時代の米で考えてみよう

ミツバチにとっての蜜は、人間にとってのお金のようなものです。血のにじむような労働の対価として、ようやく少しだけ得られるものなのです。蜜はハチにとっては食べ物でもありますから、食べ物がお金というと、少し違和感があるかもしれません。けれども、私たちも少し前の江戸時代までは、お米をお金の代わりにして経済活動を行っていました。

現代の私たちの社会では、国の経済規模を表すときは GDP(国内総生産)で表現します。けれども江戸時代には、農民(労働者)や侍(軍事力)の胃袋を支える「お米」の生産高が藩の経済力をそのまま表していて、加賀100万石(1石は お米150キロに相当するので、100万石は年間生産高15万tに相当) などというふうに、お米の生産高で経済力を表現していました。そして農民は、大名への税金をお米で納めていました。 いわゆる年貢です。江戸時代の初期は四公六民と言われ、米の収穫高の4割を公に納めることを義務付けられていました。今風に言えば、税率40%だったわけです。江戸中期からは五公五民(税率50%)になったようです。

江戸時代の経済が米によって支えられていたように、ミツバチの経済は蜜によって支えられています。蜜は食料にもなり、巣の材料にもなる、ハチにとっては大変貴重なものです。 だからこそ、無駄遣いしないようにしなければなりません。つまり、ハチの巣をつくるときは、次の二つが大切ということです。

①できるだけ広いほうがいい

②少ない材料で作りたい(コストの節約)

私たち人間も、賃貸物件を探すときなどは、限られた予算の範囲内で、なるべく広い部屋を探そうとします。ハチの住居も、同じようにコストと快適さ(広さ)のバランスが大切ということです。みなさんが部屋の形についてハチから相談されたとすると、どんな形を勧めますか?いろいろと試してみましょう。まずは、円を試してみます。図表1−aを見てください。 これだと、どうしてもスキマができてしまいます。少しでも部屋を広くしたいのに、スキマができてしまっては、その分のスペースが無駄になります。円はダメそうだということが分かりました。スキマを作らないためには、どんな形がいいのでしょうか?

図表1−a

実は、同じ大きさの正多角形を敷きつめる場合、平面をスキマなく埋める図形は、「三角形」「四角形」「六角形」の三つしかないことが知られています。このことは、有名な古代 ギリシャの哲学者・ピタゴラスによって発見されました。

図表1−b

ということは、空間を効率よく使うためには、部屋の形は 「三角形」「四角形」「六角形」の3通りしかありえないのです。それでは、この三つの中で、最もハチの要求を満たすのは、どの形でしょうか?

ここで、部屋の壁を作るのに蜜蝋が必要だという話を思い出して下さい。部屋を囲むのにどれだけ広い壁が必要かは、 図形の周囲の長さ(外周)で決まっています。外周が長いと、それだけ広い壁が必要になり、たくさんの蜜蝋を使ってしまいます。部屋の壁の材料である蜜蝋は、限られた量しかありません。その限られた蜜蝋で、できるだけ広い部屋を作りたいのです。

ということは、外周の長さ(=使わなければならない蜜蝋の量)が同じときに、部屋が一番広くなる図形を選べばいいのです。 折り紙を使って底面が三角形、四角形、六角形の筒を作ってみると、分かりやすいかもしれません。決まった大きさの折り紙で、なるべく広い部屋を作るのです(図表1−c)。ハチがやっているのは、これと同じようなことです。

図表1−c

仮に、外周の長さが12cmと決まっているものとして、 三角形、四角形、六角形のそれぞれの場合の面積を求めてみましょう。そうすれば、どの形が一番広くなるかが分かるはずです。

まずは、三角形の場合を考えます。証明は省略しますが、 外周の長さが一定の場合、面積が最大になるのは、三角形の3辺の長さがどれも等しい場合、つまり正三角形の時です。 正三角形だとすると、外周の長さが12cmと決まっているので、1辺の長さは4cmになります。三角形の面積の公式は「底辺×高さ÷2」ですが、今回の場合、底辺は4cmです。高さは、詳しい説明は省きますが、ピタゴラスの定理を使って計算すると2√3cm(√3は「ルートさん」と読み、2回掛けると3になる数字。具体的には約1.73)となります。よって、 面積は、

底辺×高さ÷2=4cm×2√3cm÷2≒4cm×(2× 1.73)cm÷2=6.92㎠

となります。 次に、四角形の場合を考えましょう。外周の長さが一定の場合、面積が最大になるのは、四角形の4辺の長さがどれも 等しい場合、つまり正方形の時です。正方形だとすると、1辺の長さは3cmですね。つまり面積は、3cm×3cm=9㎠になります。三角形のときよりも、面積が大きいですね。 最後に、六角形の場合です。こちらもお約束で、外周の長さが一定の場合は、正六角形が面積最大になります。つまり、 1辺の長さが2cmの正六角形の面積を求めればよいのです。まともに計算すると少し複雑なので、公式を使ってしまいましょう。1辺の長さがαcmの正六角形の面積は、3√ 3 /2 α²となります。

よって面積は、3√ 3 /2(2cm)²≒3×1.73/2 ×2cm×2cm=10.38cm²

となり、今までで一番大きな面積になりました。

外周の長さが同じ場合、六角形のときの部屋の広さを 100パーセントとすると、四角形の時の部屋の広さは87パ ーセント(9÷10.38=0.87)、三角形だと67パーセント (6.92÷10.38=0.67)くらいになってしまいます。こんなに差があるなんて、驚きですね。ですから、同じ蜜蝋の量でなるべく広い部屋を作ろうとするなら、六角形が一番適しているのです。

工業製品に応用される「六角形の部屋」

六角形の部屋は、衝撃に強く丈夫なことも分かっています。 その証拠に、ハチの巣の壁はとても薄いですが、その中に、 何kgものハチミツをためこむことができます。ハチの巣の六角形は「ハニカム構造」と呼ばれていて、これを使った素材はとても軽くて丈夫なので、飛行機の翼や自動車のボディ、 鉄道の扉などの設計に応用されています。

ハニカム構造の素材が軽くて丈夫なのも、六角形に秘密があります。例えば、金属のフレームを少しでも軽くしようとすると、フレームが強度を失わない程度に穴を開けるという方法が効果的でしょう。穴を開ければ、そこの金属の重さだけ全体が軽くなるからです。フレーム全体の強度は、残っている部分(穴でない箇所)の金属によって支えられています。ですから、何も考えずに穴を開けすぎてしまうと、支える力 が足りずに、フレームの強度が下がってしまいます。強度を保ちつつ、なるべく広い穴を開けることができれば、軽くて丈夫なフレームを作ることが可能になります。

発想を逆転させて考えると、支える部分(残す部分)に用いる金属の量を一定として、穴の面積を最大にすれば、強度を保ったまま極力軽くすることができるということになります。では、穴の面積を最大にしたいとき、どのような形の穴を開ければよいでしょうか?

この問題、どこかで見ませんでしたか? そう、外周(材料である蜜蝋の量)を一定とした場合に、少しでも部屋の面積を大きくしたいというハチの巣の問題と全く同じなのです。 今回は、部屋を大きくしたいのではなく、穴を大きくしたいということになりますが、数学的には全く等価です。そしてもちろん、答えは「六角形」になります。ですから、丈夫で軽い材料を作りたいときに、ハチの巣の六角形、つまりハニ カム構造が活躍するのです。ハチの部屋の形を決めている数学的なメカニズムが、最先端の材料工学の問題にも応用できるなんて、不思議な話ですね。


イラスト:遠山怜(アップルシード・エージェンシー)

※本連載に向け、一部書籍内容より編集しています。

文系でも分かる「うつくしい数学」の秘密を、京都大学卒の著者が解き明かす

この連載について

日常にひそむうつくしい数学

冨島佑允

身の回りを見渡すと、日常は不思議なほどに美しい「数」の法則にあふれている。知っているようで知らなかった日常の不思議。身の回りに隠された数の神秘。そんな「日常にひそむうつくしい数学」を、京都大学物理学専攻の著者が、小学生でもわかる平易な...もっと読む

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コメント

kelly_aina27 https://t.co/QBbGtR7UUa 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

saku2kosaku 外周同じなのに面積違うって、感覚的にはなんでやうそやろ?ってなるな。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

suerene1 面白い!【 驚き】ハチは数学の達人だった?! https://t.co/4RrNebcuob 2ヶ月前 replyretweetfavorite

yestarina さすが昆虫。ムダが有りません https://t.co/SA5TvohZnZ 2ヶ月前 replyretweetfavorite