市場縮小に税一本化 大手ビール各社に押し寄せる荒波

その小型マシンは、日本のビール文化を変える“チェンジメーカー”となるだろうか。
キリンビールが開発し、2018年3月から全国の飲食店への展開を始めたビール専用ディスペンサー「Tap Marche(タップマルシェ)」のことだ。

タップマルシェを開発したキリンビールを軸に、"クラフトビール連合"が形成されつつある

 コンセプトは、「マルシェ(市場)のように個性豊かで多様なクラフトビールを気軽に楽しんでもらう場」の創出。飲食店は8ブルワリー、20銘柄のラインアップの中から自店に合ったクラフトビールを選び、1台で4種類を同時に提供できる。

 それぞれのビールは3リットルの小型ペットボトル容器に入っているため、生ビールの樽のように場所を取らない。小規模店舗向けに2種類提供用の2タップディスペンサーも用意し、昨年末までに展開店舗数は全国約6000店と急拡大中だ。

 キリン執行役員の石田明文マーケティング本部長は「クラフトビールの魅力は多種多様な味わいを楽しめることにあるが、小さな店舗では複数のビール樽を置けない。タップマルシェはその問題を解決し、飲食店は料理とビールを合わせた多様な提案が可能となる」と話す。

 このディスペンサーの開発がキリンにとって「新たなチャレンジ」(石田本部長)であるゆえんは、キリン以外のビールの提供を可能にしたことにある。

 キリン系の「スプリングバレーブルワリー」のクラフトビールを装填することも可能だが、ヤッホーブルーイングや常陸野ネストビール、伊勢角屋麦酒、宮崎ひでじビールなどクラフト界のライバルらの商品にも対応する。タップマルシェへの参加を決めたファーイーストブルーイングの山田司郎代表は「うちのブランドである『東京ホワイト』や『東京IPA』を飲める店が一気に1000店以上増えた。僕らがこれをやろうと思えば5年以上はかかる」と話す。

 場合によっては「庇を貸して母屋を取られる」ことにもなりかねないが、石田本部長は「われわれだけではクラフトビール市場を大きくできない。縮小が続くビール市場を業界全体で活性化させることが第一だ」と話す。

王者アサヒの社運を左右する
スーパードライ

 国内ビール市場は17年まで13年連続で市場が縮小し、18年も前年比減が確実だ(下図参照)。消費量はピークの1994年と比べ、すでに7割程度の水準まで落ち込む。大手メーカーはビール以外の酒類強化や海外展開を急ぐが、収益の柱である国内ビール事業の地盤沈下は業界共通の悩みの種となっている。

 初回で触れたように、人口減少や健康志向、若者のアルコール離れなど、その原因はさまざまな社会変化が複雑に絡むが、「ビール業界自身がこの20年間、価格競争に軸足を置き過ぎた」(石田本部長)側面は否めない。

 日本の酒税法では、麦芽使用率が3分の2以上のものはビールと定義される。その重い課税対象から逃れるため麦芽使用率が低い発泡酒が発売され、03年に発泡酒の税率が引き上げられると、今度は麦芽を全く用いない「第三のビール」と呼ばれる新ジャンルが開発された。

 酒税法の抜け穴を突いて市場が求める安い商品を提供してきた大手メーカーだが、その抜け穴はふさがれつつある。近く始まる酒税の一本化だ。20年から段階的に実施され、ビールの税額を引き下げる一方、発泡酒や新ジャンルの税額を引き上げ、26年に税額を統一するものだ(下図参照)。

 3種の中で最も税額が高かったビールの店頭価格は下がるため追い風となるが、逆に発泡酒と新ジャンルにとっては逆風となる。

 ただし原価の違いから、一本化後も発泡酒や新ジャンルに若干の価格優位性が残る。この価格差をどう見るか。また「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」などビールにない機能性もある。ビールの店頭価格が下がったとしても、単純にそれだけでビールへ需要が回帰することは考えにくい。

 それ故に、今のうちにより収益性が高いビールのブランド力を高めることが欠かせない。それを怠れば、需要が拡大している缶酎ハイなどのRTDカテゴリー(「現代の世相を反映して需要増 RTDの躍進」参照)への流出が加速することも想定される。そうなればビール市場のさらなる縮小は避けられない。

 酒税一本化を前に、ビールメーカーに問われるのは、どのような戦略を描き、どこに経営資源を振り向けるかだ。下図で示したように、4社のカテゴリーポートフォリオは全く異なる。これを前提に、4社は次の一手をどのように打とうとしているのか。

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週刊ダイヤモンド 2019年1/12号 [雑誌]

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ダイヤモンド社; 週刊版
2019-01-07

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