AIやIT駆使 匠の技との融合で酒造りに革命

【キーワード④ テック化】

南部美人の酒蔵で酒米の吸水状況を確認する久慈浩介氏(右)とアイマの三浦亜美氏(左)。Photo by T.S.

 日本三大杜氏の一つに数えられる南部杜氏の発祥地、岩手県。その内陸部北端に位置する二戸市で明治時代に創業した南部美人は近年、鑑評会や海外のコンテストで数々の賞を受賞し、輸出先は世界37カ国に上るなど、今最も勢いのある酒蔵の一つだ。

 だが2018年の年初、5代目蔵元の久慈浩介氏は、業界の先行きに不安を覚える「決定的な事件」に接する。同じ明治創業の小山酒造(東京都北区)が、事実上廃業するというニュースだった。東京23区内で戦前から唯一残っていた酒蔵で、銘柄「丸眞正宗」は根強い人気を博していた。久慈氏は「廃業の主因は後継者不足と聞く。職人の育成がとてつもなく困難な時代だと痛感した」と話す。

 「職人の技術を継承する懸け橋として、人工知能(AI)を使えないか」。南部美人が加盟するawa酒協会で事務局を務める「ima(アイマ)」CEOの三浦亜美氏と相談し、酒造りのどの工程にAIを導入できるか調べた。

 久慈氏によれば、工程の99%は人の舌と鼻が欠かせない。職人の研ぎ澄まされた味覚や嗅覚を再現できる機器は、おそらく今の世に存在しない。だが、視覚ならAIで代替できる。人の「目」を使う唯一の工程、それが米を蒸す前に水を吸わせる「浸漬(しんせき)」と呼ばれる作業だ。

 浸漬は通常、米の品種や精米歩合、水温などを勘案して、ストップウオッチで計りながら吸水時間を調整する。1%でも吸水率が増減すれば、酒の味が変わる。それ故に酒造りの最高責任者である杜氏の経験に頼らざるを得ない、最も重要な工程の一つだ。

 そこでアイマは、酒米が吸水する様子を映像に記録し、色の変化などのデータを蓄積する装置を開発。12月に南部美人で実証実験を始め、最適な吸水時間を算出する仕組みを今後構築する。久慈氏は「AIで酒は造れないが、そのデータ処理能力と人の感覚をミックスさせれば、業界が抱える課題を解決できる」と話す。

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