クラフトビールに素人が続々参入 若者の心をつかめ!

【キーワード② ストーリー性】

「トライピークス」の山口公大氏。挑戦をコンセプトに「ビールの味やデザインは定期的に変化させる」。Photo by Takeshi Shigeishi

 「もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか」。個人実業家の山口公大氏は2年前、役職定年を迎えた父のささやかな退職祝いの席上、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が残した言葉をふと思い浮かべた。

 ディー・エヌ・エーを退社し、転職先の外資系企業でスタートアップの上場や資金調達の仕事に没頭していた。「圧倒的に給料を上げること、ライバルに勝つこと、会社の数字をひたすら上げること。そのときにやっていた全てのことが『本当に自分のやりたいこと』ではなかった」(山口氏)と、父との対話の中で気付かされた。

 言い知れぬ悔しさを抱えたまま、後日、登山家の故栗城史多(くりき・のぶかず)氏と偶然出会った。

 栗城氏は後にエベレスト下山中の事故で亡くなったが、山口氏は「単独無酸素でエベレスト登頂に何度も挑戦し、人に勇気を与える生き方」に引かれた。その日のうちにアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ行きを手配し、自分の中の揺らぎに対する答えをそこで見いだそうとした。

 登山経験はほぼなかったが、2018年2月に単独登頂に挑戦。標高5000メートル付近の山道で酸素が薄まる中、山頂を仰ぎ見ながら、ただ一歩ずつ歩を進めることに幸せを感じた。

 1週間かけて踏破し、下山口の村でキリマンジャロビールを振る舞われた。うまかった。その瞬間に思ったのが、「この世界をビールで表現したい」ということだった。

 これが、山口氏がクラフトビール「TRYPEAKS(トライピークス)」の開発に込めた“ストーリー”だ。

 帰国後すぐに退社を申し出、そのストーリーを具現化するビール造りに着手した。コンセプトの「挑戦」をイメージできるベンチャー企業などの販売先を決め、酒販免許を取得。委託製造先の醸造所を選び、18年7月にクラウドファンディングを実施したところ、2時間半で100万円が集まった。

 山口氏のストーリーに共感した人が商品完成前に購入を約束し、30人を超える支援の輪も広がった。イメージ動画や音楽、デザイン、通販サイトはそうした支援者らが制作する。山口氏が目指すのは「プロダクトではなく、ストーリーを売る」ということだ。

 若者のビール離れが顕著な近年、その若者を中心に人気が高まっているのがクラフトビールだ(下図参照)。小規模な醸造所が造る多種多様で個性的なビールを指し、30歳の山口氏のような新たなビールの造り手が急増している。

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