ボタニカル酒で規制の壁を跳び越えたWAKAZEの挑戦

【キーワード① 土俵をずらす】

 グリーンの地色に、草木を思わせる瀟洒なデザインのボトル。これは、日本酒ベンチャー、WAKAZEのボタニカル酒「FONIA」だ。 ハーブやスパイスなどのボタニカル(植物)原料を発酵中にブレンドしている。後述するように、新規参入が難しい日本酒業界において、この酒が突破口となった。

 「日本酒を“世界酒”にする」と豪語するWAKAZEの稲川琢磨代表は、元は米ボストンコンサルティングのコンサルタントという異色の経歴を持つ。

 酒造りをしたいと考えたのは、社会人になり、初めて日本酒「真澄」の「あらばしり」を飲んだのがきっかけだった。学生時代にフランス・パリに留学していたころ、海外の人が日本の伝統やブランドをよく知らないことが悔しく、日本のものを海外に広めたいという思いをずっと抱いていた。そんなときに真澄を飲んで、そのフルーティーな味わいに衝撃を受けた。「世界に通じるのは日本酒だ」と確信した。

 そこで知り合いのつてで若い杜氏を紹介してもらい、2015年には杜氏の実家の酒蔵で、友人と「チームWAKAZE」として週末起業で酒造りを始めた。翌年には会社を辞め、一人で起業した。

日本酒に
クラフトジンの発想を持ち込む

 しかし、ここで初めて日本酒造りのハードルの高さを思い知る。

 まず、清酒の醸造免許はこの数十年下りておらず、新規で免許を取得するのはほぼ不可能だった。自分で造ることができない以上、酒を開発するための委託先を探すしかない。そのために米どころの山形県鶴岡市に単身で移住した。豪雪地帯に住むのは初めてで、苦労の連続だった。委託先を見つけるのに1年かかった。

 「1年目は役員報酬ゼロ。銀行口座から貯金が減っていくのを眺める毎日だった」と苦笑する。

 転機が訪れたのは起業2年目のこと。山形県の工業技術センターと共同で開発したボタニカル酒のFONIAが道を切り開いた。

 「清酒」の醸造認可を取るのは難しいが、清酒“以外”なら比較的醸造免許を取りやすい。その一つが「その他の醸造酒」だ。そこで稲川氏は、日本酒造りの工程の一つを変えることを思い付く。FONIAは、醸造工程の中でハーブやスパイスをブレンドする。そうすると清酒ではなくその他の醸造酒の分類になる。こうしてその他の醸造酒で認可を取得。戦う土俵をずらして、規制の障壁を跳び越えたのだ。

 FONIAを開発するヒントとなったのは、酒造りの勉強のために訪れたロンドンで出合ったクラフトジン(クラフトビールのジン版)。「従来のジンにボタニカルなどを加えたクラフトジンは、創意工夫次第で無限大の掛け合わせが生まれる。そこにクラフトマンシップの発想がある。それを日本酒にも持ち込んだ」(稲川氏)。

 発売してみると、ボタニカル酒は飛ぶように売れた。今でも予約販売はすぐに終了するという。

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