かつては、月に二度ほど、プールでの水中歩行後、併設のサウナでたっぷり汗をかいていた。着替えもしづらく、足腰も危なくなってからは、ヘルパーさんの女子(生理)周期とも合わず、なかなか行けなくなった。そのせいか、初夏だというのに就寝中の排尿回数が多い。
冬は、モコモコパジャマが多少のものを吸い取ってくれるが、夏は、パジャマが薄い。ちょびっと漏れでもベッドのシーツと敷きパッドを貫く。この程度の話なら(笑)でごまかせるのだけれど、梅雨が明けないある日、失禁してしまった。尿で冷たくなったベッドの上で目を覚まし、尿で張り付いたショーツを曲がった手を使って懸命に剥ぐ。初めての失禁はショックで、なんとも受け入れがたい気持ちだった。でも、隠しておくわけにもいかない。
翌朝のへルパー美知子さんに尿で重くなったベッドのシーツと敷きパッドを洗濯機に入れてもらう。
「無自覚、無意識な失禁は初めてで」
ぼそっと言う私に、彼女は探偵口調で詰め寄る、
「ということは、今までの尿漏れ事件は自覚ある確信犯だったんですね。ちいさん!」
「ちがう! 私、そこまで悪人じゃない。今までは意識があって体が間に合わなかった」
慌てる私に、表情を緩める。
「ですよねー。今日は敷パッドのシミの跡の位置が違ってましたから。なら、忘れましょうか。過度の疲労やストレスで、失禁することがあると聞きますし。今日だけ、たまたまですよ。シャワーでもどうですか」
それから3日後の、2018年6月18日。大阪北部地震が発生。震度6を、自宅マンション10階のベッドで体験。その日、エレベーターが止まったものの、翌日からライフラインは元に戻った。もしも地震の時、失禁していたら……。
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