(しずかなこはんのもりのかげから)
(しずかなこはんのもりのかげから)
カノンのごとく土筆は伸びる
昨日の次は今日で、今日の次は明日だと思ってた。けど、11月11日から、毎日が11月11日だ。数えると、もう一週間。
駅に行列が出来ている。11月11日11時11分と印字された切符を買おうとしているのだ。
その時刻が過ぎると、人々は諦めたらしく散らばってゆく。
しかし、翌日も11月11日だったため、11時11分まで行列が出来た。そして、その時間を過ぎると人々は散らばってゆく。
行列は日に日に長くなる。
毎日11月11日が来ると分かった人々が、次の11時11分を待っているのだ。
町は次の11時11分を待つ人々の行列で占拠された。
一本の行列は、初めはまっすぐだったが、町に入りきらなくなり、駅の輪郭をなぞるように、一周すると二周目は一周目の外側に……。
きつきつの渦巻き状になってから、自分も並ばなければならないような強迫を感じ、行列の最後尾につく。
その瞬間、ふっと全身の力が抜ける。
下に重力を感じていた体が、前に引力を感じている。
大いなる何かに組み込まれた感があった。
遺伝子モデルが頭に浮かび、ATGCというアルファベットの連なりを口ずさむ。
後ろに人が並んだ瞬間、溢れるほどの幸福感に襲われる。
電車ごっこをしている子供たちの気分が分かる。
この前後の一体感は、最大の安寧だ。
待っていたい。本能的に感じる。ずっといつまでも待っていたい。
前から伝言があり、「今日は土筆の日」だという。
使命感に誇らしくなり、一音も間違えないよう「今日は土筆の日」と後ろに伝える。
何か付け加えようとした自分が、付け加えずそのまま伝えられたことに達成感を感じる。
ただ立っているだけで、待つという人類最大の信仰を成している。
同じ祈りを共有する同じ生き物が連なっていることの、愉悦。
最前で何が行われているのかもう忘れてしまったけれど、このままいつまでも、こうして待っていたい。
輪唱は悪魔の呪いこの世から意味を全消去する陰謀
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