自分の中だけで完結できる嘘
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、今月は「秘密と嘘」をテーマにお送りしています。
ワッコ 前回は、嘘の辻褄が合わなくなった浮気カレシの話を告発させていただきました。
森田 浮気でつく嘘みたいに、相手に関係することだと辻褄合わせが難しくなるよね。一方で、自分の中だけで完結する嘘もある。
清田 例えばどういう嘘?
森田 これは常連投稿者の“漁師の娘”さんが教えてくれたんだけど、“to do 嘘”という話があった。
ワッコ to doって、仕事感がありますね。
森田 彼氏から電話がかかってきて「何してたの?」と言われたときに、ほんとは部屋で柿の種とか食べてゴロゴロしていただけなのに、とっさに「アイロンかけてた」みたいな嘘をついてしまうことがよくあったんだって。それはその時点では嘘なんだけど、娘さん的にはアイロンかけなきゃと思っているし、「実際このあとかけるから、完全な嘘ではない!」という気持ちもあったみたい。だから“to do 嘘”なんだけど、これは完全に自分の中で完結してる感じがあるよね。
ワッコ 意識高い系の嘘でもありますよね。
清田 ゴロゴロ寝てた自分が恥ずかしいみたいなところもあったのかな。
森田 あったんだと思う。電話とかLINEだと相手にはこっちの状況がわからないから、こういう自分の中で完結する小さな嘘はつきやすいよね。
清田 そういえば俺、彼女から電話がかかってきた時に、嘘をついて電話に出なかったことがよくあったなあ。
ワッコ どんな状況だったんですか?
清田 当時俺はルームシェアをしていて、毎晩のようにルームメイトとウイニングイレブンっていうサッカーゲームをやってたのよ。その最中に彼女から電話かかってくることがよくあったんだけど、試合中だから出られなくて。
ワッコ 試合中って(笑)!
森田 一時停止すれば出られるでしょ。
清田 そこはやっぱり試合の流れってあるからさ。
森田 試合……。
清田 で、試合が終わったら「よし!」という感じでシャワー浴びて。
ワッコ ウイイレは汗かかないですよね?
清田 いや、ほら、前にも話したけど俺は汗でちょっとでもベタついてると眠れないから。
森田 知らんがな感がすごい!
清田 ドライヤーかけて歯磨きをして、寝る準備を完璧に整えてからようやく折り返しの電話をする。そこで……「ごめんごめん。さっき仕事だった!」と嘘をついていました。
森田 娘さんの“to do 嘘”はかわいいけど、その嘘は全然かわいくない……。
ワッコ そもそも「電話に気づいてるけど出ない」っていうところが気になりますよね。
森田 まあ、何を優先したいかは本人の勝手ではあるし、そこで素直に「ごめん、ウイイレやってて出られなかった」と言えない気持ちもわからないでもないんだけど。
清田 「仕事してた!」の方が圧倒的に言いやすいんだよ。ゲームって仕事よりも自分勝手な感じがするじゃない?
森田 欲望が出てるしねぇ。
清田 あと、そこで正直に言っちゃうと、おそらく彼女の中に「こいつは私の電話よりウイイレを重視するやつなんだな」というくさびが打たれると思うんだよ。そうすると、今後たまたま電話に出られない時も「またウイイレやってるんじゃないか」という見方をされるだろうという懸念もあった。
ワッコ めっちゃ先読みしてる(笑)。なんか、男子同士でワチャワチャしてるときに彼女から電話かかってきたりするとサムいみたいな空気があるじゃないですか。「何、彼女と電話してんだよ!」とか、「そんなことより試合だろ?」みたいなホモソーシャルの声が聞こえてきてそうだなって思いました。
森田 そういう“ホモソボイス”は、実際に聞こえてたの?
清田 めっちゃあった気がする。ゲームを一時停止して彼女の電話に出たこともあったけど、ルームメイトには「5分で帰ってくるから!」とごめんポーズで告げ、ほんとに5分で切り上げて戻ってきたりとか。
ワッコ ホモソ優先!!
清田 でも……でもですね、結局その彼女には振られてしまったんだけど、俺はそれから2〜3年ぐらいずっとその失恋を引きずって、週3回も夢に彼女が出てきたこともあった。その失恋期に「なんであのとき彼女を優先できなかったんだろう」と本当に後悔しました。だってさ、誰にでも「今、話したい!」って思うときがあるじゃない?
ワッコ あるある。
清田 彼女の「今!」っていう気持ちを大事にできずに、ホモソ的な楽しみを優先してしまったことは悔やんでも悔やみきれなかった。
森田 ウイイレって、偏見かもしれないけどいかにもホモソっぽいよね。
ワッコ ただ、“ホモソボイス”的なものって女性の間でもあるなって思うんですよ。わたしの職場は女性しかいないんですが、例えば夏休みをいつ取ってどこに行くかみたいな話をしているときに、「彼氏と旅行に行く」とはかなり言いづらい感じがあって。
森田 それはなんで言いづらいの?
ワッコ 「ワッコさんはセックスで業務を休むんだぁ~~」みたいに思われるんじゃないかって。だから彼氏と旅行するとき、わたしはいつも「友達の結婚式が地方であるんですよ~」とか適当な嘘をついて休みを取っていました。これはかなりあるあるなんじゃないかと思うんですけど。
清田 めっちゃわかる。快楽のために仕事を休むって感じがして、言いづらいよね。
ワッコ 女性のコミュニティだと“恋愛やプライベートが順調”=“調子乗ってる”って思われがちで。できるだけ非リア充な感じを出しておいたほうがコミュニケーションがうまくいく気がするんです。そういう空気のせいか、実際に部署で「彼氏と旅行に行く」と宣言している人を今まで一度も見たことがないんですよね。多分みんな同じことを考えてる。
森田 そもそも有休は権利なんだから、取るのに理由なんか言う必要ないんだけどね。誰とどこに行ってもそれこそ本人の勝手なわけだし。
清田 それが正論なんだろうけど、みんなそこまで割り切れないよね。「ハッピー感を減らさなきゃ」という気持ちになって小さな嘘をつくという。
ワッコ ハッピー減量、わかります。「そんな楽しい旅行じゃないっすよ」みたいな感じは出しときたい。
森田 同調圧力的なものは、男女限らずいろんなコミュニティにあるよね。
清田の「浮気旅行疑惑事件」
森田 旅行といえばさ、清田の「浮気旅行疑惑事件」っていうのがあったよね。あれも秘密と嘘を巡るエピソードだったなってふと思い出した。
ワッコ なんですかそれ!!?