6章 リスボンとその周辺
トーレス・ヴェドラシュ
白ワインと干し鱈コロッケ
リスボンに住むワイン醸造家のディオゴ・ロペスは、ポルトガルでできた最初の友人だ。
彼とは十数年前、人づてに紹介されてリスボンのバスターミナルで待ち合わせたのが初対面だった。当時彼は20代、私は30代。それから数日間、彼の働くアレンテージョのワイナリーや村に連れていってもらった。そこで昔ながらの地方料理、たとえばアソルダ・アレンテジャーナ(コリアンダーとパンとニンニクのスープ)やミーガシュ(豚肉と豚の脂のパン炒め)などを知り、個性的で素朴な料理にすっかり夢中になり、私の取材はどんどん地方へと広がった。
ディオゴは今、リスボン近郊のトーレス・ヴェドラシュという村で、尊敬して止まなかった大先輩醸造家のアンセルモ・メンデス(ディオゴは当時から彼をワイン界の法王だと言っていた)と一緒にワインを造っている。まだ新しいワイナリーだが、評判は上々らしい。サオリは一体いつ僕のワイナリーを見に来るんだと言われ続け、ある夏ようやく訪ねることができた。
リスボンで待ち合わせ、車で向かう。しばらく走るとすぐに緑が広がり、やがてあちこちにブドウ畑が現れる。この一帯はリジュボア(リスボンのポルトガル語発音)地方というワイン産地名を持ち、有名無名の造り手が大小の畑を守っている。
「通勤で気持ちいいドライブができるのは、ワイン醸造家の特権だよ」
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