居酒屋の名前【スズキナオ】

この世に星の数ほどある居酒屋。その一つ一つに当然店名があるわけで、どんな店名のお店を選ぶか、あるいはどんな店名をつけるかで、その人の性格が出る気がする。今回は、スズキナオさんによるそんな居酒屋の名前にまつわるお話。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

名前だけで店を選ぶなら

知らない町にたどり着き、どこか居酒屋で腰を落ち着けようという時に、駅前を適当な方向にウロウロ歩いてみて、今の気分に合いそうな店を探す。チェーン店を除外するとすれば、店の立地、外から見た雰囲気などと共に、お店の名前が判断材料になる。

「酒処こうちゃん」、「立ち飲みヒロセ」、「栃木屋」、「割烹 祇園」、「ワインバル NAGAREBOSHI」、「鳥政」、「活ふぐ とら屋」、「旬彩酒房 よしとみ」、「MIKO'S BAR」などという店が例えばあったとして、建物全体の感じや、店名が暖簾や扉にどんな字体で書かれているかなどももちろん重要だけど、店の名前だけで判断するとしたらどうだろうか。

「割烹」や「旬彩」と店名に冠している店は、ちょっと私には身分不相応な気がしている。サッと飲んで出るとしても5千円は持っておきたいイメージだ。私はいつも、一軒のお店について一人2千円ほどで勘弁してもらいたいと思っている。レベルが低めで申し訳ない。

と、なると、「立ち飲みヒロセ」、「酒処こうちゃん」かなーとも思うのだが、もしかして常連さんで盛り上がりまくっていて、一人よそ者が入っていくのには不向きかも。こっちも気が引けるし、向こうにとっても負担になるかな、というような予感をさせる店名である。ヒロセもこうちゃんも、なんだか、マスターあるいはママがちょっと元気そうじゃないか。「この町きってのお調子者?そりゃ決まってるよ!ヒロセとこうちゃんだよ!」ってみんなが口を揃えるみたいな。いや、元気で全然いいのだが、いかんせんこっちは旅の身である。静かに飲みたい夜なのだ。

「地名+屋」の魅力

そうなるとやはり私は「栃木屋」を選ぶ。「鳥政」も捨てがたいけど、私はこの「地名+屋」という店名に弱いのだ。店の名前として適度なゴツさがあり、かといって敷居の高さはそれほど感じられず、ほのかに郷愁を誘うようなところもある。のれんをくぐると、使い込まれて丸みをおびた白木のカウンターが目に美しく、常連さんらしき紳士が一人か二人、少し間を開けて椅子に座り、テレビの野球中継を見るでもなく見ないでもなく、というような。寡黙な大将の包丁による新鮮なお刺身がいただけそうでありつつ、お通しは春雨サラダの小鉢、ぐらいの家庭的な店じゃないかしら。

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“よむ"お酒

パリッコ,スズキナオ
イースト・プレス
2019-11-17

この連載について

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パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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