そうめんは命とり? 焼肉はこま切り! ―食事の悩み? 楽しみ!

もうそろそろ夏本番。のどごしの良いそうめんがおいしい季節です。
脳性まひ者にとっては、そうめんが時に命取りになる、でも、私、焼肉好きなんですと福本さん。やわらかいそうめんよりも固いお肉が良いとは、これいかに? 今回はそんな食の悩みと楽しみ方を語ります。最後のおまけ「千夏のお食事ライブラリー」もお楽しみに!



そうめんは脳性まひ者の命取りになる。

「フグや牡蠣のような危険な香りがしないそうめんになぜ?」と想像できないだろうが、私は幾度か死にかけた。かつては「たとえ、死んだとしても、あなたに罪はない。間が悪いと思ってください」ヘルパーさんにそんなジョークを言い、そうめんは柔らかめに湯がき、短く切って食べていた。
でも、ある日、誰もいない夜中、タッパーに残っていたそうめんをフォークですくった。一口にはわずかに多い量が、するりっと入ってしまった。麺が喉元を過ぎず喉の真ん中でピタッと止まった。麺が生き物のように喉の水分を吸って膨張してゆく。

「死ぬー! 息ができない!」

私は七転八倒し、喉に手を突っ込んで麺を掻き出した。喉の中が傷つき、その後二日ほど痛くてなにも食べられなかった。 麺は喉ごしで食べるなんて言われるが、私は喉もうまく機能しない。年齢を重ねるごとに、体のあちこちが上手く動かせなくなってきている。他人はなんでも加齢と言うが、当人にしたら限りない恐怖だ。そうめんは見るだけでこわーい夏の風物詩となった。

この日は、大学時代からの友人、沖縄在住30年の花子ちゃんを迎えての、気兼ねない寿司会席。普段は豆苗を水につけ再培し、ベランダで大葉やネギ、バジルを育てる暮らしだ。が、たまにはね。勤務二年目。知人に連れられて来店した初対面から、なにも告げずともここの板前さんは、一貫の寿司を一口サイズの二貫にして出してくれた 。聞くところによると、この板前眞ちゃんは、ザ・リッツ・カールトン大阪の寿司料理長を長年勤めたのだそうだ。懐石料理も、私のあごの動きと口のサイズを知っているかと思うほど食べやすくカッティングを施す。それを気づかせない美しい盛り付け。そして、なにより旨い!

歩行が厳しくなり、遠出もできなくなっている私だが、大切なお客様や友人を招く特別な日はここで、四季の香りと味を楽しむことにしている。そして今日も、 「姉さん、寿司は手でいくもんでっせ。赤だしもアラ抜いてますよって」 さりげなく声がかかる。 箸をうまく使えず、咀嚼が困難な私へのこの気配り。 「眞ちゃ……」 「よっ、男前ってか?」 あっははと旧友との会話も弾む。が、花子ちゃんが。 「鱧か。夏やねー。福ちゃん(夫)が生きていたら、こんなとこで食事をって想うでしょ。そういえばお見送りしたの……今時分やったね」とふと呟く。 「うん。でも花子ちゃん……。10年経つと、夫の顔が思い出せんの。でも、不思議なことに香りだけは覚えてて」 「ちなっちゃん、沖縄にこない? また、なにかが変わるかもしれんよ。息子っちぃがいなくなって一人やもん。そりゃー、淋しいさー」

関西と沖縄弁を交えての彼女の独特な口調が好きだ。 夫を見送ったしばらく、自分だけが生き残ってしまった罪悪感を拭えず、食べ物が喉を通らなかった。12キロ未亡人ダイエットに成功(?)した時、花子ちゃんを訪ねて沖縄に行った。そして、ゴーヤチャンプル、沖縄そば、青い海、花子ちゃんの寝息に救われた。 「沖縄かー」 明日帰る予定の花子ちゃんの声、もっと聞いてたい。 うるっとなる前に、頑張って明るい声で話す。

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障害マストゴーオン!

福本千夏

脳性まひ者の福本千夏さん。 50歳にして就職して、さまざまな健常者と関わる中で、感じた溝を語ります。

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コメント

krdchh タイトル、韻踏んでみました 4ヶ月前 replyretweetfavorite

tym_tomoniikiru 代表は水菜などの先の尖った葉物が喉に張り付くので気をつけているそうです… 4ヶ月前 replyretweetfavorite