美をさがし求めるのが生業である。
こんなうつくしいものを見つけた。
新しいモチーフ、新しい技法を用いて生み出された、われらが時代のアート。
「アニメ」+「リアル」でニュータイプのアートを生み出す
アニメ・漫画の人気キャラクターや名シーンが、実際に立ち現れたらどんなにすてきだろう……。
そんな妄想をしたこと、誰しもあるはず。
ならば実現させてしまおう、と思い立ったのがグラフィック・アーティストのICHIさんである。
写真、3DCG、手描き、特殊メイクと現代のテクノロジーを総動員し、卓越した業を駆使して、アニメや漫画をリアル化させている。
その創作をICHIさんは、ANIMAREALと名づけている。「アニメ」と「リアル」を組み合わせた造語だ。
基本的にはアニメ・漫画の制作サイドから、「このキャラクターで」「こんなイメージをリアル化してほしい」といった注文を受けて、制作が始まる。これまで手がけてきたのは約100作品に及ぶ。
そのなかで、ひとつ例外的な作品がある。
「受注制作ではなくて、思うがままに『自分発信』」でつくった最初の作品、それが『宇宙兄弟』をモチーフにしたこの『Last Rocket Road』です」
ICHIさんは、ムッタとヒビトの兄弟がともに宇宙飛行士を目指す人気漫画『宇宙兄弟』の、長年のファン。コミック第1巻刊行時から、リアルタイムで読み続けてきた。
「ムッタがいちど会社勤務に収まりながらも自分でまた宇宙飛行士になる夢を追いかけ始めるところとか、宇宙飛行士になるための具体的なプロセスの一つひとつに、熱くさせられてきました。
記憶に残っているシーンは無数にありますけど、今回の作品に取り上げたひとコマはとくに忘れられない。ムッタを乗せたロケットが打ち上げられ、『ロケットロード』と呼ばれる煙が空に描かれるさまを、ムッタの師匠のひとりヤンじいが見守っている。グッときますね。
この1枚の絵には、主人公が2人描かれていると思うんです。ヤンじいと、姿は見えないけれどロケット内にいるムッタ。そしてこの瞬間って、宇宙へ飛び立つムッタにとってはスタートのときであり、ヤンじいにとっては自分の人生の仕事が成就し幕を閉じるときですよね。ひとつの絵の中に終わりと始まりがあるのもカッコいい」
なるほどこのひとコマに、とことん惚れ込んだということのよう。ではICHIさんは、それをどのようにリアル化していったのか?
「できあがった1枚のアートパネルを実際のコミックの該当コマと比べると、すべてがそっくり同じというわけではないんです。画面のタテヨコ比からしてまったく違いますから。もとになったコマはヨコ長のものでしたが、それをぐいっと思いきりタテ長にしてあります。ロケットロードが上へ上へと伸びていくところが、このシーンを絵として見せるなら最大のポイントにして見どころだろうと思ったので。
漫画の絵柄を完璧にトレースしようとしているわけではないんです。そもそも漫画というのはデフォルメによって絵づくりがされているもの。作者はエッセンスを削りに削り、最小の要素を使って漫画の絵をつくりだしている。
僕がやっているのは、ギリギリまで削がれたその漫画作品のエッセンスから、あれこれ想像して絵をふたたび膨らませ、人が最もリアリティを感じるかたちにすること。つまりは再構築をしているので、もとの絵とまるっきりそっくりにはなりませんね」
「作品愛」をベースに、漫画・アニメを作品化する
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