いだてん』第25回「時代は変わる」〜第2部開始! 口達者の田畑政治

脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英、チーフ演出・井上剛、大注目のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」第25回「時代は変わる」。関四三(中村勘九郎)がまさかの3度目のオリンピックに出場し、負けて帰ってきた報告会で「負けちゃ意味がない」と息巻く若者が現れる。田畑政治(阿部サダヲ)である。30歳で死ぬと予言され、体の弱かった彼は、自分が生きている間に日本水泳を世界レベルに引き上げようと血気盛んだが……

〈「いだてん」第25回「時代は変わる」あらすじ〉
脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英、チーフ演出・井上剛、大注目のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」第25回「時代は変わる」。関四三(中村勘九郎)がまさかの3度目のオリンピックに出場し、負けて帰ってきた報告会で「負けちゃ意味がない」と息巻く若者が現れる。田畑政治(阿部サダヲ)である。30歳で死ぬと予言され、体の弱かった彼は、自分が生きている間に日本水泳を世界レベルに引き上げようと血気盛んだが……


 いよいよ始まった第二部、主人公田畑政治は口達者らしい。前回の予告編では嘉納治五郎が「奴は口が韋駄天だね」と言っていた。金栗四三がその走りによって「いだてん」と言われたように、田畑政治はその弁舌によって韋駄天ぶりを発揮するということらしい。しかしそれはどういう事態なのか。

 もちろん、早口でしゃべりまくる描写はあるだろう。予告編を見ただけでも田畑の台詞の多さが尋常ではないことは伝わってくる。しかし、早いだけでは説得力に欠ける。そこにはマラソンのように、比較すべき他の者が必要だ。タイムや順位を競う他の走者がいて、その他者と抜きつ抜かれつのデッドヒートを演じるからこそ、走る者の速さは際立つ。実際、第一部では、ストックホルム・オリンピックを頂点とする幾多の競技会が描かれ、四三のとつけむにゃあ脚力、そしてその四三をもってしても超えることのできない世界の壁を、視聴者はいやが上にも感じ取ることができた。

 けれど、口が達者ということを誰と競えるだろうか。田畑は新聞記者であり、弁論大会で他人と競うという機会も期待できそうにない。もちろん、弁が立つがゆえに人を説得するのに長けているであろうことは予想できる。しかし、それだけでは「口が韋駄天」ということにはならない。

口先 vs 頭

 この難題に対してクドカンのとった方法は「頭と口の競争」だった。

 田畑は面接で質問を受けるや否や、矢継ぎ早に話し始める。「さあ社長!日本泳法とクロールの一騎打ち、どっちが勝ったと思います?」  そう問うたあとも、田畑の話は止まらない。相手が答える前に立て板に水でしゃべりまくる。社長がようやく入る隙を見つけて「あっクロールかね?」と返すと、すかさず田畑は「そう!」と答えるや否や「違〜う!」と前言を翻す。この「そう!違う」「違う!そう」という言い間違いを田畑は連発する。ここだ。つまり、田畑は頭で考えたことに先んじて口先で「そう!」と言う。ところがこの「そう!」は実は間違いで、頭があとから「違う」と言い直す。この感じ、どこかで見たことがある。そう、ストックホルムの四三だ。Y字の分岐に来たときに、脚がいつのまにか間違った方向を選んでから、ダニエルに指摘されてあわてて正しい方に戻る。あれとまるで同じではないか。田畑は口の力でことばを推進させる。だから口が勝手に違う道を選んでしまう。それで、あとから訂正することになるのだ。

 新聞社の入社面接に立ち会った緒方竹虎は、田畑を評してこう言う。「頭に口が追いついてない、といったふうでしたな」。常套句としては正しい。確かに頭と口がずれている。しかし、田畑の場合はむしろ、頭が口に追いついていないのではないか。あまりに口がまわるので、頭で考えていないことまで口走ってしまう。三叉路に来たら逆を選んでしまう。すなわち、治五郎の言葉通り「口が韋駄天」なのだ。

口先 vs 語り

 もう一つ、クドカンが仕掛けたのは、田畑をこのドラマの要である語りと競争させることだった。あちこちで、田畑は孝蔵五りんの語りを出し抜く。それだけではない。演芸場での孝蔵の「火焔太鼓」とのやりとりでは、「水ちょーだーい!」と道具屋のおかみのせりふを孝蔵の声に重ねたあと、サゲの「おじゃんになるから」を、孝蔵を出し抜いて先に言ってしまう。単にスピードが速いだけではない、ことばからことばに移るタイミングが、常人より少しばかり速い。落語家が、ゆったり間をとって言おうとする間に、抜き去ってしまうのだ。ずるいと言えばずるいのだが、しかし、この間合い、どこか治五郎の柔道に似ていなくもない。治五郎には背負い投げをかけられてしまった河童のマーちゃんだが、口の方は意外にも、治五郎の技の奥義を体得しているのかもしれない。

マリーという女

 ローズというバーが田畑と緒方のたまり場として描かれ出した。ママのマリーを演じているのが薬師丸ひろ子であるからには、このバーにはドラマにとって重要な因縁があるのだろう。しかしそれにしては、マリーの振る舞いにはどうも信頼のおけないところがある。

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今週の「いだてん」噺

細馬宏通

近現代を扱ったNHK大河ドラマとしては33年ぶりとなる「いだてん〜東京オリムピック噺〜」。伝説の朝ドラ「あまちゃん」と同じ制作チーム(脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英、演出・井上剛)が、今度は日本人初のオリンピック選手・金栗四三と、6...もっと読む

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コメント

abetomo 「口が韋駄天」の意図。なるほどー。 https://t.co/uz0O1Qx3tN 3ヶ月前 replyretweetfavorite

live_at_budokan 第2部が始まった「いだてん」、圧巻だった…。ものすごいスピードで走り抜けた物語が最後、ショーケンの存在感にドスンとせき止められる。火焔太鼓との並走にもワクワクさせられた。 https://t.co/BwUqAkGMwv 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kaerusan 夜のお知らせ。今週の 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kaerusan 田畑政治ははたして「いだてん」と呼ばれるにふさわしい人物なのか。 3ヶ月前 replyretweetfavorite