娘のアリソンと新郎のベンは、どちらも「マルチレイシャル(複数の人種的背景を持つ人)」(アメリカではハーフとは呼ばない)である。アリソンの父親はオランダ、イギリス、ドイツなどの先祖を持つ白人であり、ベンのほうは、お母さんが高校生のときに渡米した韓国系アメリカ人、お父さんのほうはカナダに移住したフランス人を先祖に持つ白人だ。2人とも生まれたときからアメリカ国籍なのに白人から外国人や移民扱いされることもある「アジア系アメリカ人」のカテゴリに入る。その微妙な心境を説明しなくても理解しあえるところに気楽さがある。親の私たちもそうだ。
娘のアリソンと新郎のベンが交際を始めたのは高校時代で、2人がジュニア(4年制高校3年生、16歳)とシニア(4年制高校4年生、17歳)のときだった。結婚したときには2人は26歳と27歳だったので、なんと10年も若い恋を継続させたことになる。
きっかけは高校のオーケストラ
公式に付き合うという意味では「初恋」だが、どちらも「一目惚れ」ではない。
ベンの家族は彼が中学生のときにわが家のすぐ近くに引っ越してきた。通学バスでときおり顔をあわせていたのだが、近所の女友だちとバスの中で大声でおしゃべりしているアリソンのことをベンは「うるさい子だなあ」と思っていて、アリソンのほうはベンの存在にすら気づいていなかった。
むしろ、ベンの存在を先に知っていたのは私である。
いつも車で通る道に建築中の素敵な家があった。ある日、庭で2人の少年が落ち葉かきをしているのをみかけ、新しい家族が引っ越してきたのを知った。「勉強と大学入学選考に有利になる課外活動だけやっていれば手伝いなどしなくていい」という考えの裕福な親が多い地域で、子供たちが熱心にお手伝いをしている光景は印象的だった。
中学時代にまったくお互いに興味がなかった2人が仲良くなったきっかけは、揃って高校のミュージカルの「ピットオーケストラ(ミュージカルやオペラのオーケストラ)」に選ばれたことだった。すでに吹奏楽団とジャズ・バンドのメンバーとして顔見知りだったのだが、ピットオーケストラは人数も少なく、ジャズトロンボーンのアリソンとトランペットのベンは席が前後だ。ときには深夜まで続く練習の合間におしゃべりする機会が多く、練習後には車の免許を持つベンが免許を持っていないアリソンを家まで送り届けてくれた。このあたりは、アメリカの古い青春映画のシーンのようだ。
厳しいオーディションがあるジャズ・バンドの中で女子が娘ひとりだったとき、ベンはトランペット(右から2人め)だった。
だが、この出会いのきっかけを遡ると、私が最大の貢献者なのである(といばる)。
6歳のときから競泳をやっていた娘は中学生のときにオリンピック選手もいるエリート水泳チームに移籍した。そのストレスがたまっていて高校に進学する前に「高校では吹奏楽はやめる。水泳で忙しすぎるから」と言い出した。ふつうは子供の意見を最重視する私なのだが、このときだけは「とりあえず1年やってみなさい。それで嫌ならやめればいい」としつこく勧めた。
というのは、この町の公立高校には、全米でも指折りの吹奏楽団と多くのジャズバンドを産み出したレナード先生という素晴らしい音楽プログラムの指導者がいたからだ。カリスマ性があるレナード先生は生徒たちを虜にし、才能を開花させるだけでなく、高校生活をハッピーにしてくれるのだと多くの親や元生徒たちから耳にしていた。
しぶしぶ高校で吹奏楽を続けた娘だが、母の目論見通りレナード先生だけでなく吹奏楽団やジャズ・バンドに即座に惚れ込んだ。娘は音楽プログラムでたくさんの友だちを作って高校生活がハッピーになっただけでなく、つらいだけになった競泳の世界を離れる勇気も得た。
ベンは、若いのにこの音楽仲間の中で最も頼りにされていた人格者で、家に食事に来たり、別荘で夏休みを一緒に過ごしたりしてその人柄を知るようになった私は、娘に向かい半分以上真面目にこう嘆いた。
「あなた、順番が間違っているわよ! 幸せな関係にたどり着くふつうのパターンは、最初にどうしようもないバッドボーイとつきあって、その失敗から学んで最後に人柄が良い人と恋を成就させるというものよ。なのに、あなたときたら最初から人柄が良い人を選んでしまって……、この先どうするの?」と。
娘のほうは『また母親が変なことを言っている』という感じで、「マミー、世の中には最初から失敗しない選択をする人もいるのよ」と相手にもしなかった。
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