読者はもう、マンガから「卒業」したい?
けんすう 今後のマンガの見せ方はどうなっていくんでしょうね。例えばアプリの読者が一気に増えたら、そちらを優先するマンガ家さんが増えるのか。
かっぴー そうなると思います。ただ、やっぱりアプリはマネタイズしにくいし、アプリでいくらPVを稼いでも、ある程度は紙の部数も伸びてくれないと連載継続が難しくなる傾向にあると思います。
左:けんすうさん 右:かっぴーさん
けんすう ゆえに紙を売らなきゃいけないんだけど……。
かっぴー なかなか売れないんですよね。
けんすう 若い人に話を聞くと、「マンガって高級商材じゃないですか」と言われることがあるんです。例えば、Nintendo Switchの本体は定価で約3万円ですと。一方『ONE PIECE』を全巻買うと4万円を超える。単行本3冊分のお金でNetflixのスタンダードプランの月額料金が払えるし、親が契約していればタダで楽しめるわけです。そう考えると、マンガは割高だと感じてしまうらしくて。たしかに、僕も今中高生ぐらいだったらそう思っちゃうかもしれません。
かっぴー それにマンガの単行本がこれから安くなることはないですからね。むしろ部数が下がれば単価が上がってくる。あと、「マンガの読者は、単行本を買うのをやめるタイミングをずっと探している」ってよく言われるんですよ。ある巻できれいにまとまると、そこで読者が満足しちゃって離脱率が上がるんです。みんな、マンガから卒業したいんですよ。
けんすう やめるタイミングを探してるっていうの、わかるなあ。『ONE PIECE』は僕が16歳のときに連載がスタートして、20年以上経っても終わる気配がないし……。自分が50歳を過ぎてもまだ単行本を買い続けているのかと思うと、ちょっとしんどいですね。しかも、昔と比べて人気マンガは長期連載化する傾向にありますし。
かっぴー 二極化してますよね。人気連載が長期化する一方で、5巻以下で終わる作品が爆増していて。
けんすう 出版社的には、人気があって売れているマンガは終わらせたくない。でも、読者的には完結してもらわないと手が出しにくいという状況がある。難しいですね。
「無料で全話読めます」がまずい理由
かっぴー このあいだ集英社と講談社がコラボして、「ジャンマガ学園」というサイトを期間限定で立ち上げましたよね。「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年マガジン」を中心とした連載作品が無料で読めるっていうもので。マンガ業界的には、二大巨塔による初の共同プロジェクトというビッグニュースだったんですけど……。
けんすう 意外とバズりませんでしたね。今の読者はレーベル(雑誌)単位で作品を読まなくなっているので。
かっぴー マンガ家や出版社にとっては新しいことでも、それでもまだ消費者の感覚に追いつけていないというのがわかって、結構ショックでした。
けんすう マンガの統一プラットフォームみたいなものはみんなが考えているけれど、やっぱり出版社の足並みを揃えるのに、あと4年はかかるんじゃないかという話を聞いたことがあります。
かっぴー それを出版社の外からやろうとすると、けんすうさんが作った「アル」になるんだろうなと思って。
けんすう うーん、「アル」はどちらかというと、新しいプラットフォームを作るというよりは、既存のビジネスモデルを守る側の立場なんですよ。
例えば、「アル」には「みんなの好きなコマ」をまとめたページがあります。ここはユーザーに、気に入ったマンガのコマにコメントを添えて紹介してもらう場です。「アル」に来た人はまずここから入って、各マンガの詳細ページに飛び、そこからさらにみんなの感想を読んだり、Amazonのページに行って本を買ったりする動線になっているんです。
「アル」内、「全てのコマ投稿一覧」より
かっぴー はいはい。
けんすう 最近は、出版社がWebで第1話を無料公開しているパターンが多いですよね。でも、1話を読んだだけでは作品の面白さがわからないという問題があります。そこで出版社が「じゃあ3巻まで無料です」とやるんですけど、それはそれで読むのに時間的コストがかかるので、みんな躊躇しちゃうみたいなんです。
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