Webマンガのセオリーに、逆らいたい
かっぴー 前回、第3話まで読まないと面白さが伝わらないマンガは不利だって話があったじゃないですか。これはWebマンガに多い傾向かなと思うのですが、新連載のマンガは、やっぱり第1話で面白いか面白くないかを判断されてしまう。だから、第1話がトリッキーになりがちっていう。
けんすう はい。
かっぴー たしかに、第1話でPVをドンと稼ぐ戦い方もあるけれど、せっかくマンガは自由なのに、それだとどれも同じような切り口になってしまう。反して『左ききのエレン』は、「3巻まで読んでなんとなくわかってくる」とよく言われるんです。
けんすう そうですね(笑)。
かっぴー 登場人物も多いし、時間軸も行ったり来たりするし……3話どころか、1巻分読んでも意味がわからないっていうのは、最近のマンガの常識からすれば悪手も悪手なんです。でも、そうしないと全体像がちゃんと伝わらないなと思って、こうしています。
かっぴーさん
けんすう 「エレン」のような作品の場合、それぞれのキャラに感情移入できるので、一度読みはじめるとつい追いかけたくなってしまう。だから結果論かもしれませんけど、それもうまいやり方だったんじゃないかと思います。
かっぴー ありがとうございます。
けんすう 普通のマンガはそこまでいかないケースが多くて、たぶん有名なマンガでも、共感できるキャラってそう多くはない。人気投票をやっても、上位3キャラぐらいは固定されちゃうと思うんです。でも「エレン」は、サブキャラでも主役を張れるポテンシャルがあるし、共感もできる。そこは強みですよね。僕は、みっちゃんとかわりと好きなんですけど。
「みっちゃん」こと三橋由利奈。コピーライターで、光一と同じプロジェクトチームに属している。
(「左ききのエレン HYPE」18話より)
かっぴー みっちゃん、いいですよね。僕は毎回章立てで物語を組み立てているんですけど、章ごとに人気投票をしたら、ランキングがめちゃくちゃ変動するように描きたいと思っているんです。
けんすう なるほど!
かっぴー ある章では上位にランクインしていたキャラが、次の章では圏外になるくらい、激しい入れ替わりがあるといいなって。
けんすう それは面白いですね。
顔が映っているほど、人は共感する
けんすう これは僕の素人考えなんですけど……。感情移入のしやすさという点でいうと、「エレン」ではキャラの顔のアップが多いのも関係しているんじゃないかなと。前回もちょっと話題に出ましたが、YouTuberと友達感覚になれるのも、顔が写っているからだと思っているんです。かっぴーさんは、「エレン」で意識的に顔をたくさん描いてるんですか?
けんすうさん
かっぴー そうですね。意識的にというか、僕はとにかくキャラの表情を描きたいんです。でも、そればっかりやっていると、いわゆる「顔マンガ」になってしまう。顔マンガって、主に経験が浅くて画力も足らない、要は顔しか描けないマンガ家の作風を揶揄する言葉だと思うんです。「エレン」もそうなっているなと自覚はしていて。実際、Twitterでもたまに「顔マンガだな」って言われたりするんですけど。
けんすう そんなこと言うんだ。
かっぴー 『アントレース』の原作をやっていたときも、作画担当の春瀬隼さんが、僕のネームをマンガとしてより美しいコマ割りになるよう、アレンジしてくださったりしたんです。でも、それをあえて元に戻してもらう事もあって……。顔のカットが続きすぎると、マンガを描き慣れている人からすれば、修正したくなるんですよ。
けんすう 「顔マンガ」にならないように。
かっぴー そう。でも、僕は顔マンガこそ逃げられないと思っています。表情をちゃんと描かなきゃいけないから、むしろ「顔から逃げるな!」という気持ちでネームを描いているんです。今、僕はほかの連載でもいろいろと経験を積んで、顔マンガじゃなくする方法はもうわかってるんです。つまり、どういうカットで繋いでいけば、マンガ的に完成されて見えるかというのは心得ている。でもそのうえで、やっぱり顔を描きたいんです。そうなったらもう、“顔をどう描くか”しかないなって。
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