今とこれからのマンガの話

がんばっている誰か」は、何者にもなれない人間をファンにする

cakesで「左ききのエレン HYPE」を連載中のかっぴーさんと、“次に読みたいマンガ”を見つけるためのサイト「アル」を運営するけんすう(古川健介)さん。お二人が、マンガの今とこれからについて語る対談を、全3回でお届けします。初回はマンガを取り巻く現在の状況を、紙とWebの比較、そして中国のマンガ事情や、YouTuberがこれだけ人気を博している背景まで考察しながら、整理していきます。

左:かっぴーさん 右:けんすうさん

インターネット時代のマンガの話をしよう

けんすう 僕、めっちゃ初期からかっぴーさんのファンだったんですよ。それこそかっぴーさんがWebマンガ家としてデビューされたときからずっと作品を読んでいて。

かっぴー 「フェイスブックポリス」から?

けんすう そうそう。その続編の『SNSポリス』とか、『おしゃ家ソムリエ!おしゃ子!』も好きでしたし。紙媒体でも「週刊SPA!」で連載されていた『バズマン』も毎週チェックしてました。


バズマン (SPA!コミックス)

かっぴー ありがとうございます。「SPA!」の連載をちゃんと追ってくれるのは、うちの両親かけんすうさんぐらいですよ(笑)。

けんすう いやいや(笑)。連載初期はまだWebマンガのノリでコマが大きめなんですけど、だんだん紙に最適化されているのを見て「すげえなあ」と思っていました。

かっぴー 振り返ると、「SPA!」を挟んでから「ジャンプSQ.」に行けた(※1)のはよかったなと思っています。『バズマン』も3年くらい前になるのか。
※1「ジャンプSQ.」2018年5月号から2019年3月号まで、かっぴーさんは原作者として『アントレース』を連載。

けんすう 「バズマン」はネット広告を題材にしたマンガでしたけど、ほんとに面白かったです。当時はインターネットの世界をちゃんとわかったうえでマンガを描ける人って、ほぼいなかったんですよ。僕は20年くらい前からWebサービスを作っていて、いわばインターネットの世界にどっぷり浸かっていた。だから、こういう言い方は偉そうですけど、かっぴーさんの描くいわゆる“あるあるネタ”を、パーフェクトに理解できる立場だったんですよね。

かっぴー 僕自身は言うほどネットに詳しくないんですけどね。

けんすう いやでも「フェイスブックポリス」の時点で、ネットの空気感を上手にすくい取っていましたよ。それが新鮮でした。

かっぴー  嬉しいです。
で、今日はですね、けんすうさんは「アル」というマンガサイトも運営されているので、Web、紙を問わず、最近のマンガに起こった変化や、「これからのマンガはどうなっていくのか?」みたいな話とかも聞けたらいいなと。


「アル」トップページより

けんすう マンガ家の先生を前に、これからのマンガの話をするのはちょっと荷が重いような……。

かっぴー いやいや、僕は亜種なので(笑)。

今のスピード感が、マンガに二極化をもたらした

けんすう もともとWebメディアやWebコミュニティに携わってきた者の観点からお話させてもらうと、みんな気づいていると思うんですけど、まずここ数年でコンテンツのスピード感がどんどん増してるんですよね。

かっぴー そうですね。

けんすう TikTokは1秒もかからずに面白いかどうかが判断されるし、動画自体の長さもほとんど10秒未満じゃないですか。YouTubeもよりタイトに編集されるようになっているし、Twitterやインスタにしても、数秒で閲覧できてしまう。そんななかマンガを読ませるのって、かなりハードルが高いなと。
例えば、第1話から第3話まで読んでようやく物語の構造がつかめてくるようなマンガがあったとして、これが週刊連載なら、面白さがわかってくるまでに3週間もかかる。だから、圧倒的に不利なんです。

かっぴー そうなんですよね。

けんすう 一方、Web上の活字メディアの数字に目をやると、400文字以下のコンテンツは結構読まれていて、1000文字ぐらいのコンテンツが一番読まれていない。でも、4000文字を超えるとまた閲覧数が増える。U字曲線を描くようになっているんです。同じように、マンガも長期連載の作品はよく読まれているんですよ。『ONE PIECE』とか『キングダム』とか。

かっぴー はいはい。

けんすう 僕は以前、普段あまりマンガを読まない人に、「どんなマンガを読みますか?」って聞いて回ったことがあるんです。そのときに多かった答えが、“すでに完結していて評価が固定しているマンガ”か、今言った“長く続いているマンガ”だったんです。

かっぴー へええ。

けんすう おそらく、「長く続いている=人気があって面白い」という安心感があるんでしょうね。なので極論すると、Twitterに画像を4枚貼り付けて完結するような超短編マンガと、売れていることがわかっている長期連載マンガ。これに人気が二分されている気がします。

かっぴー たしかに僕も、最初の頃はスピード感を重視していましたね。Twitterに4枚画像を貼るというのはやったことないですけど、1話で完結するような、短くて軽いギャグものを描いていました。その頃は、自分のマンガのことを「ライトコンテンツだ」って言っていて……。でも今は、長編の「左ききのエレン」を描いている。その理由がまさに、今けんすうさんがおっしゃった、ライトコンテンツと長編マンガの住み分けの話だと思うんです。ライトコンテンツだと、本当にマネタイズが難しいんですよ。


原作版 左ききのエレン(14):平成の終わり

けんすう 難しいですね。

かっぴー 正直、それで食っていく方法が思いつかなかった。どうしても、単発で広告を取るみたいな感じになってしまう。そうすると、持って3年だなと思って。

けんすう ですよね。広告主サイドから賞味期限を設定されちゃうというか。向こうからしたら、どうしてもより新鮮なコンテンツに広告を出したいというバイアスがかかるし。

かっぴー そうなんです。

けんすう 逆に、この二極化した状況を生かして僕が今「アル」でやっているのが、版元から許可をもらったうえで、「マンガのコマを切り取ってシェアする」というものなんです。そうすることで、長編マンガをライトコンテンツっぽく見せつつ、そのコマで興味を持った人をマンガ本体に誘導できるかなと。まだ実験的な試みではあるんですけど。

かっぴー なるほど。そのあたりも、後ほど詳しくお聞きしたいです。

「自分の代わりにがんばっている人」が娯楽になる

けんすう 海外では例えば、中国のマンガアプリを見ていると、作品よりも作家を前面に押し出しているんですよ。つまりマンガ家をアーティスト化していて、極端に言うと、顔がいいマンガ家が売れるようになっています。

かっぴー マジですか?

けんすう はい。しかも「アーティスト」といっても芸術家ではなくて、音楽のアーティストみたいな感じなんです。音楽って、いろんなアーティストのアルバムを買う人もいますけど、一般的にはお気に入りのアーティストの作品を追っていくじゃないですか。

かっぴー そうですね。

けんすう それと同じように、ユーザーにアーティスト=マンガ家のファンになってもらって、そのアーティストの作品を買い続けてもらう。そういう仕組みを作るのが正解だ、っていう発想だと思うんですよね。

かっぴー なるほど、そこは日本と違いますね。日本だと、意外とマンガ家が知られていない。それこそ『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生のような、「週刊少年ジャンプ」の看板レベルの方は別として。

けんすう そうですよね。日本では作品のほうが強いので。尾田先生は超有名なマンガ家ですけど、言ってしまえば代表作は『ONE PIECE』1つしかない。でも中国の人気マンガ家は、中編を何作も描いているんです。いわば、音楽のアーティストがコンスタントにアルバムを発表していくような感じになっているのかなって。

かっぴー 面白いですね。日本にも「マンガ家はアーティストだ」みたいな言説は昔からあるけれど、それってやっぱり「ファインアート」のアーティストなんです。「マンガは第9のアート」(※2)とかもそうですよね。そうじゃなくて、音楽のアーティストっていうのが今っぽい。
※2 マンガは建築、彫刻、絵画、音楽、文学(詩)、演劇、映画、メディア芸術に次ぐ“第9の芸術”であるという発想。

けんすう あるいは、マンガ家の物語に読者を巻き込んでいる感じかもしれません。SNSをマメに更新して、自分がマンガを描いている動画や画像を、見た人にシェアしてもらうかたちで。

かっぴー 僕も若干そっち系というか……。

けんすう あ、そうですね(笑)。

かっぴー 日本でもWebから出てくるマンガ家は、ちょっと今の中国のマンガ家に似ているのかな。最近だと山科ティナちゃんとか。

けんすう 今の世の中は、仕事量はソフトウェアの発達により減っているんですけど、もらえるお金はそんなに増えなくて、娯楽も大量には消費できなくなってきている。そうするとみんな何を求めるかというと、“自分の代わりにがんばっている人”なんじゃないかと思うんです。要は、みんな程度の差こそあれ「何者かになりたい」という願望を抱いている。でも大半の人はなれない。そこで、何かやろうとしている人を応援するタイプの娯楽に走るのかなって。その流れが、中国や日本のマンガ界でも生まれている気はしますね。

かっぴー なるほど。YouTuberが流行っているのも、その流れなんですかね?

けんすう ああ、まさにそうですね。YouTuberのチャンネルよりもクオリティの高いコンテンツは世の中に溢れているので。たぶん、クオリティの高さはあんまり関係ないんです。

かっぴー そこなんですよね。最近、僕もめちゃくちゃYouTuberのチャンネル見てます。最初はちょっと斜めに見ていたんですけど、今は全力で好きになりました。

けんすう 不思議とハマってしまうんですよね。

かっぴー 楽しみ方がわかるまでに、ちょっと時間がかかるんですよね。特に僕なんかはおじさんだから、初見ですぐには入れなかったんですけど、一度入れてしまうともう、延々と見ていられます。基本、YouTuberは毎回カジュアルで軽いネタをやっているので、動画を流しっぱなしにしてボーっと眺めているんですけど、たまに真剣な話をされたりすると、グッときちゃう。

けんすう 思う壺じゃないですか(笑)。

かっぴー そう(笑)。接点が長いと、YouTuberがだんだん友達みたいに思えてくるんですよ。コラボ動画とかもあって、まるで友達に友達を紹介されたみたいな感覚になって、「じゃあその人の動画も見てみよう」って。で、やっぱり延々と見ちゃう。

けんすう うまくできてますね。

構成:須藤 輝

次回「Web上で共感を生み出す『顔のアップ』」は、7月11日(木)更新予定

本日公開の「左ききのエレン」最新話も合わせてお楽しみください!


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この連載について

今とこれからのマンガの話

かっぴー /けんすう(古川健介)

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コメント

hahtagon すきなお2人の対談、読み応えすごい || 2ヶ月前 replyretweetfavorite

idatter 最近の「娯楽」というコンテンツのお話でなるほど面白かった。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

miong1223 つまりこういうことか。 諦めちまって人や物にずるずると依存するのか。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

itsuki_02 "Web上の活字メディアの数字に目をやると、400文字以下のコンテンツは結構読まれていて、1000文字ぐらいのコンテンツが一番読まれていない。でも、4000文字を超えるとまた閲覧数が増える。U字曲線を描くようになっている" https://t.co/1B2k5H7EUt 2ヶ月前 replyretweetfavorite