優勝の瞬間
約2000万人の日本人の視線が
Jリーガーに注がれていた
久しぶりの居酒屋サッカー論、更新!
東アジアカップ、ザックジャパンは最終戦で韓国を2-1で破り、優勝を果たした。Jリーガーのみで優勝を果たしたこと、柿谷曜一朗をはじめとする選手たちの一般ニュースへの露出。Jリーグにとって、これほど効果の高いパブリシティーは他に考えられないだろう。
また、日本に残っていたJリーグ勢も大きな仕事をした。マンチェスター・ユナイテッドやアーセナルといった世界のビッグクラブとのプレシーズンマッチでは、横浜F・マリノスが3-2でユナイテッドを破り、セレッソ大阪も2-2と善戦。さらにサガン鳥栖は2-1でデル・ピエロ擁するシドニーFCに勝利。一方、最も仕上がりが良さそうだったアーセナルに対しては名古屋グランパスが1-3、浦和レッズが1-2と残念ながらどちらも敗戦。とはいえ、僕が観戦した浦和戦では、アーセナルに対して浦和の良さや魅力も充分に出ていた。
アジアに収入源を求めてツアーにやって来る欧州クラブ。しかし、むしろJリーグ勢が善戦したことで、彼らビッグクラブの知名度をうまく踏み台にして、「Jリーグって強いんだな」「面白そうだな」と一般のお客さんに感じてもらい、Jクラブとしても新規ファンの呼び込みに成功した部分も大きいのではと思う。
プロスポーツは勝つことが大事だなあと、改めて思った。「見方が深まれば、つまらないサッカーの試合は一つもない」というのが僕の持論だけど、みんながみんな高い観戦力を求めて、サッカーを深く、能動的に楽しむことを望むわけでもない。試合内容がどうとか、戦術の相性がどうとか、オフシーズンの欧州クラブとシーズン中のJクラブにはコンディション面のハンデがあるとか、気候がどうとか、そのような試合の前提条件を、そもそも新規ファンは大して気にしていなかったりする。
(僕はそういう勝負事の綾が、大好きだけど…)
たとえ相手のコンディションがボロボロでも、「3-2でユナイテッドに勝利」というニュースが出れば、それだけで「Jリーグって強いんだ」「面白そうだな」と感じてもらうきっかけにもなる。だからこそゴールをたくさん挙げ、内容どうこうより、まずは試合に勝つ。究極的にシンプルに、試合のスコアでJリーグの魅力を見せる。ニュースやハイライトだけで試合結果を知る人も多いのだから、尚の事、それが大切になる。
東アジアカップもそうだ。日本代表といっても、実質はB代表。ここからA代表に継続的に選ばれるのはほんの一握りの選手に過ぎない。海外組のコンディションにもよるが、2~3人、多くて4人だろうか。それは最初からわかっていたことだ。このチームでワールドカップを戦うわけではない。
また、今回のチームは連携を高める時間も充分に与えられず、むしろJリーグの夏の連戦で溜まった疲労を抱えたままで韓国にやって来た。お湯をかけて3分で完成させなければならないようなチームなのだから、行列が出来るようなラーメン屋の味を期待するのは筋違いというものだし、正直に言えば、最終戦の相手が韓国でなければ、サッカー的にはたいして見どころのない大会だったと思う。実際、内容もイマイチだった。それは仕方がない。
でも、やっぱり日本代表として『結果』を残したことの価値は計り知れない。東アジアカップの試合の視聴率はそれぞれ20%弱。単純計算で日本に住む2000万人弱の視線が、優勝カップを掲げるJリーガーに注がれていたということだ。「Jリーグって面白そうだな」と感じた人も少なくないはず。その価値は途方もなく大きいし、試合内容が良くても、結果を残せなければこんなマインドを生み出すことはなかっただろう。大人のスポーツは勝ってナンボだと改めて思い知らされた。
東アジアカップ、プレシーズンマッチ。7月のJリーグ中断期間は日本のサッカーにとってポジティブなことばかりだった。
今回のメインテーマは「A代表に食い込みそうな2~3人、あるいは4人は誰になるのか」という考察なので、ここまでは雑談に過ぎないのだが、今後ザックジャパンに選ばれない選手のほうが大半を占めるB代表が、Jリーグのために果たしたポジティブな功績についても触れておきたいと思った。
A代表に呼ばれるのは誰だ!?
さて。東アジアカップにおける指揮官ザックの目的は、海外組を含めたレギュラーチームにどれだけの新戦力を送り込めるのか? その一点に絞られていた。
いろいろ考察していきたいが、ワールドカップに登録する日本代表23人の枠はコンフェデレーションズカップで一度埋まっているため、「東アジアで○○選手が良かった」という絶対的な評価にはあまり意味がない。チームに空席がない以上、誰かがメンバー入りを果たせば、現メンバーの誰かが押し出されることになる。つまり「○○を☓☓に代えたほうがいい」といった相対的な評価の仕方がふさわしい。
そこで、まずは現状の23人の組み合わせを考えてみる。それぞれのポジションの上段がレギュラー、下段がサブになる。
1トップ 前田遼一
ハーフナー・マイク
2列目 香川真司 本田圭佑 岡崎慎司
乾貴士 中村憲剛 清武弘嗣
3列目 遠藤保仁 長谷部誠
細貝萌 高橋秀人
DF 長友佑都 今野泰幸 吉田麻也 内田篤人
酒井高徳 伊野波雅彦 栗原勇蔵 酒井宏樹
GK 川島永嗣
西川周作
権田修一
これが現状のメンバー。各ポジションにレギュラー、サブの2人ずつを用意する形に第3GKを加えて23人が構成されている。今野、遠藤、本田、岡崎の個性は現状のチームではオリジナリティーが高いが、基本的には似た選手を同ポジションに用意する形になっている。
結論から言えば、今回の東アジアカップからいきなりスタメンに食い込む選手は1人もいないだろう。ただし、それにもっとも近い位置にいると考えられるのが柿谷だ。
その根拠はザックの起用法にある。この大会、ザックはレギュラーチームと同じシステムを敷き、さらに岡崎のところに工藤壮人、遠藤のところに青山敏弘など、レギュラー選手と似たタイプの選手を配置した。このチームとしてのポジションではなく、レギュラーチームのザックジャパンの型にはめ、どこかのポジションから戦力として計算できる個人が出てくるのかどうかを見極めた。そのほうがスムーズに新戦力をチームに組み込むことができる。相変わらず、ザックのチーム構築はねらいが明確でわかりやすい。
前田+柿谷で戦術オプションの充実を図る
ところが、その中で唯一、現状のチームと明らかに仕事内容が異なっていたのが1トップの柿谷だ。柿谷は3得点と目覚ましい活躍を見せたが、その内容はレギュラーの前田がこのチームで果たしている役割とはまったく違う。前線から相手を追い詰めるプレッシング、香川が中央へ入ってきたときの左サイドのカバーなど、前田が守備面で果たしている貢献度は柿谷とは比べ物にならないほど高い。
また、1トップとして足元にボールを収めるプレーと、裏へ飛び出す意識の比率は、前田が8:2だとすると、柿谷は4:6くらいだろうか。全面的に1トップとしての仕事内容が異なるのだ。おそらく、これはザックの意図的な起用だろう。
韓国戦を見ている最中、僕はコンフェデ3戦目のメキシコ戦の後半を思い出した。相手の両サイドバックが高い位置を取り、岡崎と香川の両サイドハーフがずるずると下がらざるを得ず、ボールを奪う位置が低くなってしまう。すると奪ったボールをつなげようと縦パスを出しても、それを収めようとした前田や本田へのサポートの距離が遠くなり、彼らが孤立してつぶされてしまう。
結果、そのまま連続攻撃を受けて、ついに堤防が決壊するように失点。それがメキシコ戦だった。相手が明らかに攻撃にシフトした時間帯をどのようにしのぐか。これはザックジャパンの重要な改善テーマだ。
裏へ飛び出す意識の高い柿谷の起用は、このような状況をカウンター攻撃で打ち破るためのザックのオプション作りではないかと考えられる。青山のパスから抜け出してカウンターを成功させた韓国戦の柿谷の1点目は、まさにそれがハマった形だろう。仮にうまく抜け出せなくても、相手センターバックの頭を越えるようなボールさえ蹴っておけば、ラインを上げる時間を稼ぐことができる。足元に縦パスを入れて奪われるより、リスクも抑えられる。
この起用法と、それが実際に当たったことを考えると、柿谷のメンバー入りの可能性はかなり高まったと見てもいい。ただし、それは前田と入れ替わるという意味ではない。コンフェデ開幕戦のブラジル戦で岡崎を1トップに置いたことを考えても、ザックは1トップに異なるタイプを複数置き、対戦相手によって前田と柿谷を使い分ける可能性もある。
となると、押し出されるのは控えのハーフナー・マイクになるだろう。8月14日のウルグアイ戦は太もも痛で招集が回避されたハーフナーだが、これはタイミングが悪かったかもしれない。新戦力がハマれば、このままフェードアウトする可能性は高い。
今の柿谷の決定力は尋常ではない。それを支えている要因は、体幹の安定感だろう。柿谷のプレーを見ていると、上半身が常にピンと立ち、まったくブレていない。韓国戦の1点目のカウンターアタックの場面、柿谷は後ろから追ってくる韓国DFをチラッと目で確認し、イレギュラーバウンドをしたボールを落ち着いてコントロールし、さらにGKの動きを見て逆を突くなど、決定力を生み出すいくつかのディテールをプレーに盛り込んでいる。姿勢が安定しているので、チラッと振り返っても、イレギュラーしても、バランスがブレない。相手GKの動きに対してもとっさに対応ができる。これは大きな魅力だ。
裏への飛び出しとカウンターアタック、そして決定力を備えた新戦力。とはいえ、柿谷を入れるときはメリットだけでなく、デメリットも考えなければならない。前田が出場しなければ、守備時のプレッシングや、香川の自由な動きのカバー、そしてセットプレー時の強力な壁としての空中戦の働きに穴が空いてしまう。どれも目立たないが、重要なプレーだ。「守備のプレッシングなんて、柿谷がしっかり走ればいいじゃないか」と思われるかもしれないが、柿谷がそれをやってしまうと、攻守の切り替え時に裏のスペースへ飛び出せるポジションを離れる時間が多くなり、彼を投入した意味が薄くなってしまう。
11人をどうやって組み合わせるかは、ジグソーパズルのようなものだ。凸型と凸型でスペースを消しあったり、凹型と凹型でスペースを空けてしまったり、そういうズレが起こらないように、かつ個性が生きるようにメンバーの組み合わせを考えなければならない。まさにパズル。
ザックがどう考えるかはわからないが、柿谷を起用することで生まれる凹みをどう解消するか。
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