金色の鐘の音を砂糖漬けにしてペガサスに与え金星にゆく
俺の理想がいた。
会社の経理部の端っこに。化粧っけのない顔に黒髪のショートヘア、やぼったい紺のスーツだったが、それが彼女の素の美しさを際立たせている。頭の中で服を脱がす。なだらかな丘陵の頂に乳首が尖り、丘陵を下ると茂みの奥に泉が湧いている。
彼女と目が合うのを、書類が戻ってくる間座って待つ。熱い視線が通じたのか、彼女がふっと思い出したような視線を俺の方に向ける。俺はチャンスを逃さず、その視線を掴む。目が合って戸惑うような揺らぎを見せた彼女にすかさず俺を認識させる。俺は目で彼女に言う。
今夜俺のアパートに来てください。
想像通りの彼女の裸体に俺は俺の舌を這わせる。俺の舌は俺の分身として硬く尖って押し込み、平たく広がって舐め上げる。我慢強い彼女が透明な声を洩らす。体が芳香を醸す。俺はそれを脳髄まで吸い込む。
金色の実が見える。丘の上に生っている。俺の命だから、俺はそれを命懸けで採りにいく。
何度も何度も転びながら、俺は丘の上の俺の命にたどり着く。
金色の実を摘み取り、手のひらに載せる。この世で最も美味であることが見ただけでわかる。俺は、その実を食べるべきか否か思案する。大抵、この世で一番のものを手に入れると夢は消えると決まっている。
しかし、俺は抗えなかった。見れば見るほど俺を誘うような、甘い塊。
俺は唾を飲み込んでから、食べることに決めた。
俺は赤ん坊だった。理想の彼女の。俺は、彼女の胸に抱かれている。
愛を訴えたいのだが、一つも言葉が出てこない。
仕方なく、俺は彼女を見上げている。
洋菓子店のモンブランの頂にある求愛している雄栗鼠(りす)の脳
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。