書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
2ヶ月に一度の開放感
数ヶ月前まで、約15年という長きにわたり、池袋で会社員をしていました。会社員なので昼間っから自由にお酒を飲むようなことはできなかったのですが、2ヶ月にたった一度だけ、自分にそれを許す日がありました。
僕の仕事は、とある会社が母体となって作る音楽系冊子の編集業で、編集部は僕ひとり。つまり、ほぼひとりで全作業をしていたというわけ。当然、締切日に向けて徐々に忙しくなっていき、残業時間もどんどん延びていきます。刊行ペースは2ヶ月に1回で、ついにすべての入稿データが揃い、印刷所に連絡を入れると、さすがにその日は他にする仕事もありません。究極の開放感。そこで、だいたい午後3、4時くらいなことが多かったかな、ひとりお疲れ会と称して、まだ日の高いうちから一杯やっちゃってもいいことにしていたんですね。
池袋なので、昼や朝から飲める酒場はもちろん、24時間営業の飲み屋だって珍しくない。とはいえ、何年も同じ街にいればマンネリにもなってきます。また、特に気候の良い春夏は、外で飲みたくなる。そんな経緯で、いつの頃からか僕の定番となっていったのが、「都市の隙間飲み」でした。
誰にも用事のない場所
池袋東口、「サンシャイン60」という高層ビルの周囲に広がる「サンシャインシティ」には、さまざまなお店やアミュージメント施設などが溢れ、いつもたくさんの人で大にぎわい。特に小学生たちが夏休みの間など、歩くのにも苦労するほどの人出となります。が、商業施設の詰まったビルを最上階まで登るとたどり着く屋上庭園風エリアは、比較的のんびりとした雰囲気。周囲で働く勤め人の方々がお弁当を食べたり一休みしたりする憩いの場となっています。この周辺、なんだかやたらと地形が入り組んでいておもしろい。やったことはないんですが、「マインクラフト」っていうゲームがあるでしょう。たぶん、初心者の僕があれを好き勝手にいじるとこんな風になるんじゃないかな? っていう謎の複雑さ。迷路のようといってもいいかもしれません。
僕は西武池袋線沿線の生まれなので、中高生の頃から、都会に出るとなればとりあえずは池袋でした。今でもまったく成長していませんが、シンプルに「バカ」と表現するのがぴったりの学生だったもので、この入り組んだエリアが楽しくてしょうがなかった。友達と無目的に遊びにいっては、探検と称し、なるべく人の入り込まないような場所を探してただウロウロウロウロとしていたものです。
そんな素養が、成長して酒好きとなった僕の欲望と結びついたのでしょう。無事2ヶ月に一度の大仕事を終えた究極の開放感の中、コンビニやスーパーなどでお酒とつまみを買い込み、サンシャインシティのなるべく人が来ない場所で飲むのが、ものすごく楽しいし落ち着けることに気づいてしまったんですね。
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