その日はこの時季まれに見る豪雨で、スタンレー・ジェイルに至る道路が渋滞するほどだった。
──これだけ多くの記者たちが、五十嵐さんの処刑を見物に行くのか。
彼らが、イギリス本国にいる人々の報復感情を満たす仕事をしているのは分かる。それでも群がるように押し寄せる記者たちの気持ちが、鮫島には理解し難い。
ようやく刑務所に車が着いた。まだ処刑には時間はあるが、鮫島は小走りで刑が執行されるという棟への道を急いだ。
棟の前には十人以上の門衛がおり、イギリス人記者に対しても厳重なボディチェックを行っている。
唯一の日本人である鮫島は取り囲まれ、荒々しく体の隅々まで探られた。それが済むと、囚人さながらに左右から腕を取られて将校の前に連れていかれた。そこで名前を聞かれ、名簿と照合された後、ようやく中に入ることが許された。
外が雨ということもあり、死刑執行室は湿気に包まれていた。皆、ハンケチで額の汗を拭きながら、生贄の登場を待っている。
死刑が執行される部屋と記者団や関係者のいる部屋はガラスで隔てられ、ドアもないので執行室の中には入れないようになっている。それでも不安なのか、ガラスの左右には、二人の兵が銃を提げて立っている。
執行室の天井は吹き抜けになっており、十三階段と絞首台が設置されている。その殺伐とした雰囲気に、鮫島はたまらず目をそらした。
記者たちは椅子に座り、思い思いに何事かを語り合いながら死刑執行の時を待っている。中には本国の政治について語ったり、昨夜の食事についての感想を述べたりする者もいる。鮫島が弁護人だったことを皆、知っているはずだが、記者たちは鮫島に関心を示さず、自らの会話に夢中になっていた。
そうしたことには慣れているつもりの鮫島だが、時折、聞こえる笑い声には耐え難いものを感じた。
──こいつらにとっては他人事なのだ。
アメリカ人に比べても、欧州人たちのアジア人蔑視ははなはだしい。植民地の歴史と密接に結び付いているからだろうが、人を人とも思わない態度が、こうしたところに表れてしまう。
──見ていろよ。これからの日本を。
鮫島は心に期した。
やがて刑務官や兵が隣室に入ってきた。たちまち記者たちは静まり返る。
時計を見ると、執行五分前になっていた。
──いよいよだな。