男に連れられて初めてレズビアンバーに行った女の話

牧村さんは20代前半の頃、自分がレズビアンであることを自分自身で認められず、世界のどこにも安心できる場所がないと思っていたそうです。お金もなく、世間のこともよくわからないまま必死に生きていたある日、とある男性に「おもしろいとこ連れてったるから。任しとき」と言われ……。


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 22歳とかだったと思う。

 女なので、男と付き合わなきゃいけないと思ってて、男と付き合ってて、でも男にはおっぱいがないし物足りないな〜と思ってて、そんなこと言えなくて、自分でも自分がレズビアンだって認められなくて、それに、相手の男の人も何かに疲れている人で、そんなわけでセックスとかぜんぜんしてなかった。なんか、悲惨だった。

 こら悲惨やでと思いながら情報を求めてレズビアンの人のアメブロのメンバー限定記事を読むために登録申請したら、警戒心MAXの返事が来た。「あなた、なんですか。ここがどういうブログかわかってますか」。

 それで、自分をちゃんとレズビアンだと言えない自分はまず勉強をしないといけないのではと思ってLGBT勉強会に参加したら、「当事者です」と名乗る人がこう言っていた。「つらいよね。ま、バカノンケにはわかんないかもしんないけどさ(笑)」。

 レズビアンアメブロにも、LGBT勉強会にも、男の腕の中にも、どこにも、世界のどこにも、安心できる場所はなかった。わたしの家に転がり込んだ男はだんだん家賃光熱費食費の折半分を払ってくれなくなっていった。

 それでも、

 憧れの女優がいた。
 憧れで生きていた。
 憧れの女優のもとで働きたい一心で、芸能事務所に入り、レッスンを受けた。

 業界人がいた。

 プロデューサーがいた。
 政治家がいた。
 美容皮膚科医がいた。
 謎の有力者がいた。
 なんか面白いことやりましょうよ〜w だけで渡り歩いてる何屋かよくわかんない人がいた。

 22歳とかだったと思う。
 金がなかった。
 東京とか、男と女だとか、カマトトぶるわけじゃないけど、全然、わかんなかった。

 はらぺこのわたしはなんらかの偉い人からフグ料理屋に呼ばれ、なみなみと酒を注がれ、断る権利がないと思っており、無理して飲んだ。ぶっ倒れた。おかみさんがお座敷で介抱してくださり、わたしは非常に恥ずかしくなった。自分がものすごく子どもに思えた。銀座からタクシーに乗せられ、何万円かお金をもらったので、やったあ、これで家賃が払えるう、と思った。銀座駅まででいいですと言い、三鷹の家まで電車で帰った。残りのお金を生活の糧にした。あらゆる意味でみじめであった。あらゆる意味で申し訳なかった。

「……ってことがあって迷惑かけたんでお酒とか飲まないんですけど、」
 みじめなまじめではっきり言った。
「それでもいいんですか、飲み相手、わたしで」
「ええで、ええで、おもろいとこ連れてったるから。任しとき」

 ノリの軽いその人は美容関係の男性社長だった。わたしはバイト先の肉屋で廃棄されたメンチカツで食いつないでおり、肌が荒れていた。肌が荒れていると芸能の仕事が取れないので、美容関係の施術を非常に受けたかったが、なんせ、金がなかった。

「おもろいとこってなんですか」
「あー……おもろいとこやねんけどなあ。しゃあけど、あさちゃんみたいな真面目ぇ〜な子、びっくりさせるかもしらんな。俺みたいなんはよう飲みに行くねんけど」
「なんですか」
「あんな、」

 軽いノリでその人はこう言った。

「あさちゃん、レズとかって大丈夫?」

 赤坂から、新宿二丁目へ。タクシーが走る。東京を走る。
 知らない人ばかりの東京を走る。知らない人ばかりが東京を走る。

 あくまでも西のノリを東京で貫きながらその人は言った。

「あんな、俺、誰とでも友達になれんねん。しゃあからな俺、男やけど、レズバーにも友達おるし、男一人で飲みに行っても俺やったら特別オッケーやねん。普通はあかんで。男やから。しゃあけどな俺な、やっぱ男やんか、友達会いたいけど、そんな毎回レズバー飲みに行ったら、こいつ、下心あるんちゃうかて、正味、嫌やん。ほんまに、友達やのに。しゃあからな、しゃあからな……」

 しゃあから、しゃあから、なんなんやろか。
 めちゃくちゃお金を払う人だなあと思った。
 さみしさを、お金とウェ〜イで埋めるような、ギンギラギンな夜遊びソウルを感じた。けれどわたしはその人をよく知らなくて、「誰とでも友達になれる」というその人と、まだ、友達になれた気はしていないのだった。

 そんなわけで、タクシーは「レズバー」に着いた。雑居ビルの一角のそのドアになんか、白いプラスチックに縦書きの、「会員制」みたいなプレートがあった気がする。けれど、それを見て心の準備をするまでもなく、その人はドアをぶち開けた。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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k5t1s2_3 リアルなレポ 2ヶ月前 replyretweetfavorite