ウエディングは家でする」という娘の爆弾宣言

娘のアリソンが長年のボーイフレンドのベンと婚約を決めた。と思ったら、「ウエディングは自宅でする」と言い出し、パニックに陥ってしまった渡辺由佳里さん。結婚式にトラウマも抱える渡辺さんとその家族の1年にわたる「手作り結婚式」のドタバタ模様をお届けします。

増改築が完了したわが家で娘が結婚式をやりたいと言い出した

娘のアリソンが長年のボーイフレンドベンと婚約したのは2018年の6月だった。25歳と26歳で婚約というのは早いように感じるかもしれないが、アリソンが高校のジュニア(アメリカの4年制高校の3年生)、ベンがシニア(4年生)のときから9年つきあってきた2人なので、親たちにとって婚約発表は「時間の問題」でしかなかった。

しかし、婚約報告に引き続く娘の発言には驚愕した。

16ヶ月にわたる増改築を1年前に終えたばかりのわが家を眺め回していた娘は、軽い調子で「ウェディングはここでするわ」と宣言したのだ。


私が結婚式の準備をするなんて…

「生まれ育った家から嫁ぎたい」というセンチメンタルな理由ではない。そもそも娘が生まれたのは東京だし、1996年にこの家に引っ越してから娘が15年使っていた部屋は増改築で消滅した。娘は友人を招くたびに、吹き抜けになったリビングルームの空中を指さして「そこに私の部屋があったのよ」と教える。

アメリカでは子供は18歳で家を出たら独立する慣習があり、娘もニューヨークにあるコロンビア大学に入学してからは私たちの家には住んでいない。3年前に地元といえるボストン大学のメディカルスクール(医学部大学院)に入学したが、そのときからベンと一緒にアパート暮らしをしている。新築部分に娘の部屋を作ったけれども、車で40分ほど離れたボストン市内に住んでいる彼女が泊まることはほとんどない。

根本的にセンチメンタルではない娘がこの家で結婚式をしたかった理由は次のようなものだ。

1. わが家が増改築でパーティに最適のデザインになった
2.ベニュー(結婚式と披露宴の会場)の費用を払う必要がないのでコストカットができる
3.人気があるベニューは予約が困難。だが、家でならいつでも希望の日が予約できる
4.自分たちが楽しめるユニークな結婚式を自由に作りあげ、自由に楽しめる

娘が挙げなかったが、親の私たちが頭の中で付け加えたのが次の理由だ。

5.会場の準備をほぼ親まかせにできる

娘のメディカルスクールには基本的に休日がない。メディカルスクールを終えたらすぐに非人道的に過酷なレジデンシー(卒業後の後期研修)が始まる。アメリカの医師の資格試験(USMLE) はステップ1、2、3と3つをこなさなければならないのだが、3年生の終わりにあるステップ2は2019年の5月31日であり、その翌週の月曜から4年目の前期研修がスタートする。

結婚式を挙げるとしたらステップ2試験の直後ということになるが、ハネムーンに行く暇がないだけでなく、ベニューとやり取りするような暇はない。だが、わが家であれば親の私たちにわがままを言うことができる。

娘の安易な宣言に対する私の第一声はこれだ。
「自分の結婚式にさえ興味なかった私に結婚式の準備なんかさせないでよ!」

次号で詳しく書くが、私は結婚式というものにほとんど興味がなかった珍しいタイプの花嫁だったのだ。興味がないだけでなく、むしろマイルドな「結婚式アレルギー」だった。義理と義務で自分の結婚式に出た私にアメリカでの結婚式を任せるなんて無謀すぎる。

「自宅結婚式」の問題は、私たち夫婦(主に私)がウエディングプランナーになる必要があることだ。

アメリカの結婚式は、参列者の数に応じてホテル、会員制のカントリークラブ、美術館などの会場(ベニュー)をまず選び、ウエディングプランナーを雇って食事やデコレーションなどの段取り責任者になってもらうのが通常のパターンだ。日本の結婚式よりもこなさねばならぬ詳細が多いので、ウエディングプランナーを雇っても花嫁やその家族が相当関わることになる。それだけで精神的に疲弊してしまう花嫁もいるくらいだ。

コストの問題も大きい。なにせ、アメリカでは費用を含めた結婚式のすべてに責任を持つのは花嫁の両親なのだ。この慣習の原因は、女性に男性と同等の人権がなく、所有物だった時代に遡るようだ。そのころのイギリスやアメリカでは、新婦は「dowry(持参金)」を持ってこなければならなかった。女性の両親からの遺産の前払いだったという説もある。持参金の制度はなくなったが、そのかわりに新婦の両親が結婚式の費用を払うようになったらしい。

29年前の私と夫のように経済的に独立しているカップルが自分たちで負担することも増えているのだが、娘は4年間の授業料に3000万円かかるメディカルスクールの学生(本人がローンを組んで払っている)である。そして、花婿になるベンはハーバード大学院での進化生物学の博士課程の真っ只中だ。

アメリカでは理系の博士課程(医学は例外)の場合には学費免除で、わずかながらも給与が出る。しかし、ベンが受け取っている給与ではアパート代と食費くらいしかカバーできない。2人が貯金できるようになるのには後数年かかるし、結婚式の費用を自己負担できるようになるには10年以上かかるだろう。結論から言うと、しきたりどおりに花嫁の親がなんとかするしかない。

すっかりパニックに陥ってしまった私は、コストが低い逃げ道としてインテリアが美しい高級レストランでの貸し切りディナーを考えた。レストランに電話して空きを確認し、価格などのデータを揃えて娘にプレゼンテーションをしたのだが、「レストランやホテルでする堅苦しいのは嫌。気楽な集まりでいいから自宅でやる」とあっさり却下されてしまった。


アメリカの結婚式にまつわるお金事情

腹をくくって現実に立ち向かうため、アメリカの結婚式にはいくらかかるのか調べてみた。

結婚するカップルがよく使うサイトThe Knotが2017年に13000カップルから聞き取った結果では平均33,391ドル(約360万円)で、2016年の調査では35329ドル(約380万円)だという。だが、地域差が大きい。コストが最も低いミシシッピは140万円以下で、最も高いニューヨークのマンハッタンでは約1000万円と雲泥の差だ。

地域による極端な差を示す例が、マサチューセッツ州にあるナンタケット島だ。有名な観光地であるだけでなく、結婚式のメッカとしてニューヨークやボストンからわざわざお金持ちがやってきて式を挙げる。最近も、知人の娘の結婚式に参列するために島を訪れているビル・クリントン元大統領と道でばったりでくわしたくらいだ。

私達夫婦はまだ東京に住んでいた1992年にナンタケット島にバケーションハウスを買い、娘が生まれたときには「いつかここで結婚式を挙げるかもね」と話していた。そこで、ナンタケット島での結婚式の平均コストを調べたところ、なんと参列者ひとり頭8万6千円から10万円かかるという。娘たちの結婚式はどんなにカットしても参列者が120人になるということだから下手をすると約1200万円かかる計算だ。ホテルによっては「120人参列するなら週末全部ホテルを貸し切っていただく」と言う。とんでもない話だ。

「そこまでする必要はないだろう」と思うかもしれない。

だが、結婚式には家族からの有言無言のプレッシャーがある。夫は三人兄弟の長男で、真ん中の弟が10年ほど前に再婚したときにナンタケット島で結婚式とパーティを、一番下の弟が2年前に再婚したときにはマンハッタンで豪華な披露パーティを行った。兄弟の中でひとりだけ最初の結婚を維持している夫は「離婚する経済的余裕なんかないからね」とくだらない冗談をよく言うが、経済面に関しては同意せざるを得ない。


マンハッタンでの義弟の結婚披露パーティ

結婚式のコストの全米平均は日本の結婚式の平均とそう変わらない。しかし、参列者からの祝儀で式の費用をかなりカバーできる日本とは異なり、現金を贈る慣習がないアメリカの式はすべて主催者の負担になる。

そのうえ、娘が家で結婚式を挙げることを知った義母からは「あなたはどんなドレスを着るの?」、「フラワーアレンジメントの手配は大丈夫? 私が紹介してあげましょうか?」と、しょっちゅう電話がかかってくる。アメリカの結婚式に関して無知な私を心配しているようだ。

家族のスタンダードにあわせる努力や費用を考えると気が滅入ってくる。


しかし、結婚式で最も大切なのは結婚するカップルではないか。参列者ではない。

私の気が重くなったのは、アメリカの裕福な中流階級の白人のスタンダードや期待に応えなければならないと思ったからだ。

結婚式にまったく興味がないが実質主義の私は、目標とマインドセットをすっかり切り替えることにした。

最も重要なのは結婚する2人が心から楽しむことができる1日にすることだ。

その次に重要なのは、親の私たちも楽しむことだ。

私は決意した。
「スタンダードを忘れ、新婚カップルと参列者全員が心から楽しめるユニークな結婚式を手作りしてやろうではないか」と。

もともと他人とは異なることがしたい夫もそれに大賛成だった。「みんなの真似をして同じことをやるのはつまんないよ。世界にひとつしかない楽しいパーティにしよう」

心がけは良いが、ひとまかせ出来ないとなるとすべてが手探り状態だ。
この日から、1年にわたる私たち夫婦の「手作り結婚式」計画のドタバタ劇がスタートした。(つづく)


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この連載について

まさかの自宅ウエディング

渡辺由佳里

娘のアリソンが長年のボーイフレンドのベンと婚約を決めた。と思ったら、「ウエディングは自宅でする」と言い出してパニックに陥ってしまった渡辺由佳里さん。自身の経験から結婚式にトラウマも抱える渡辺さんとその家族の1年にわたる「手作り結婚式」...もっと読む

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コメント

takahashi_weco アメリカの結婚式事情が分かる興味深い連載エッセイ。 花嫁の親世代の心境も共感できて面白い。 続きが待ち遠しい。 https://t.co/2SpJGfVVWT 3ヶ月前 replyretweetfavorite

maruchika  私は結婚披露宴をやらなかったけれど、なんだか面白く読んだ。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

ER_Marathon 相談員の「女の子だから育てるのは大変」というのは米国的な事情もありそうです。花嫁の両親が結婚費用の全てを負担するとか・・ 「 ウエディングは家でする」という娘の爆弾宣言 渡辺由佳里 https://t.co/dMcEfhjpVU https://t.co/aaviydO47p 4ヶ月前 replyretweetfavorite

harapekokazoku 大変そう…だけど続きが気になる。 4ヶ月前 replyretweetfavorite