5章 マデイラ島
フンシャル
ザルコの来た道
大西洋に浮かぶマデイラ諸島(マデイラ島、ポルト・サント島、デゼルタス諸島などからなる火山群島)は、地図で見るとポルトガル本土よりむしろアフリカ大陸に近い。北アフリカ海岸から約600キロ沖合の亜熱帯性気候の地域にあり、リスボンからは南西約1000キロ。ここは15世紀初頭まで無人島だった。
年中温暖で自然豊かなマデイラ島は、今はヨーロッパ屈指の人気リゾート地だ。祭りが多く、特に5月のフェスタ・ダ・フロール(花祭り)は有名で、島は花と人で溢れるという。また、ポルトガルが誇るサッカー選手、クリスチアーノ・ロナウドの故郷でもあり、2017年から空港の正式名は、クリスチアーノ・ロナウド・マデイラ国際空港になっている。
11月の始め、寒いリスボンを発って1時間半、そろそろ着陸の機内アナウンスがある頃だ。荷物を片付け、さて上着はしまうか着るかどうしよう。
「みなさま、これから当機はポルト・サント空港に着陸いたします」
ん? どこだそれは。これ、マデイラ行きでしょ?
「マデイラ空港は現在天候不良のため、隣のポルト・サント島へ緊急着陸いたします」
さっきまで、クロアチアから遊びに来たと楽し気に話していた濃い顔の隣の男性が、おいマジかよ、ポルト・サント島ってどこだよ、と眉間にしわを寄せ、顔の陰影をさらに深めてぼやいている。着陸後も、機内はざわめきが収まらない。
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