ディズニーが『アラジン』を実写化するというニュースは、俳優ウィル・スミス扮するランプの魔人ジーニーのユニークなビジュアルと共に伝えられた。1992年公開のアニメ版は広く知られているが、完成度の高いアニメ版に対して、実写版はどのような方向性を打ち出したのか。監督は、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』('98)や『スナッチ』('00)、『シャーロック・ホームズ』('09)などで知られるガイ・リッチーが務めた。
物語の主人公は、王国アグラバーに暮らす貧しいコソ泥の青年アラジン。彼は国務大臣ジャファーに命令され、危険な洞窟から魔法のランプを持ち帰るという役割を担わされる。ランプを手に入れた者はあらゆる願いが叶うといい、国務大臣はランプを用いて強大な権力を手に入れようと野望を抱いていたのだ。
アニメ版は27年前の作品となるが、いま見ても先進的である。登場人物がスクリーン越しに観客へ直接語りかけてくるメタ的な構造や、おとぎ話らしい定番の枠組みをテンポのいい会話と畳みかけるギャグの連続で脱臼させる脚本。こうした語りの手法は、現代の映画、特にコメディのジャンルにおける定番の手法となっている。もとより洗練されていたアニメ版の要素にくわえて、現代的なアップデートが施されたのは、ヒロインである王女ジャスミンの存在だ。アニメ版での飢えた民に同情する王女の優しさには、実写版において社会変革を目指す主体性がくわわった。
また、アニメ版にはなかった唯一の新曲「スピーチレス」も意義ぶかい。長らく「王女は容姿さえ美しければいい、自分の意見を持つ必要はない」(Better seen not heard)と言われてきた女性が、「私は黙らない」(I won't go speechless)と意思を示す「スピーチレス」には、現代的な問題意識が込められている。このように、今回の実写版が現代風に更新されつつも娯楽性の高いリメイクとして成功した要因は多々あるが、何より監督としてガイ・リッチーを指名した点は大きいだろう。
アラジン、ジーニーといった『アラジン』のキャラクターは、どれも軽く飄々とした雰囲気が持ち味である。陽気で前向き、いつでも軽口を叩きながら、王国アグラバーを自由に闊歩する遊び人のようなアラジン。エネルギッシュで口数が多く、あふれんばかりの愛嬌をふりまくジーニー。こうした陽性のキャラクターを実写版で再現する際に、ガイ・リッチーはうってつけの人選である。適材適所とはまさにこのことではないか。
ガイ・リッチー作品のキャラクターはみな独特の軽さを持っている。わけても『コードネーム U.N.C.L.E.』('15)に出てくる登場人物の調子のよさ、テンポよく物語が進んでいく様子は、音楽の使い方やファッション、タイトルロゴのおしゃれさなども含めて、深刻ぶった雰囲気とは完全に無縁な、みごとなまでの軽さを武器にしていた。一般的に、多くの映画作家は経験と共に重厚さを増していくが、20年以上のキャリアを持つ監督らしからぬ軽薄さを保ちつづけるガイ・リッチーのスタイルは、遊び人アラジンのはじけるような明るさと相性がいい。