希望の缶詰には震災前から『それ』が詰まっていた

東日本大震災による大津波は、宮城県石巻市にあった木の屋石巻水産の工場を壊滅させました。掘り出された缶詰は、東京・世田谷の経堂に運ばれ、商店街の人々の協力で磨き上げられ、1缶300円で販売されました。「希望の缶詰」と呼ばれたその缶詰は、人と人をつなぎ、全国に広がり、洗われ、販売され、工場再建のきっかけとなります。 震災で希望を忘れなかった人と、手と心を差し出した人情商店街の人々がつながった感動の物語です。(バナーの写真:佐藤孝仁)

 震災から7年の2018年に入っても、木の屋の快進撃は止まらない。2017年には、マツコ・デラックスの「マツコの知らない世界」(TBS系)でもその美味しさが絶賛され、全国から注文が殺到した。一連のメディア露出をきっかけに、東北と首都圏中心だった木の屋の知名度が、日本じゅうに広がっている。

この本の編集作業中の2018年1月。本書を企画・プロデュース・編集する石黒謙吾さんが偶然
見かけた、栃木・上河内SA で大量に並べてプッシュされる木の屋のサバ缶。

 震災復興のシンボルとなった缶詰の灯は、一時のブームで終わらず、ますます明るさを増している。

 2017年11月、日本経済新聞に掲載された記事はさらに追い風となるもので、「サバ缶の売り上げが前年度に比べて5割アップしている」という内容だった。缶詰博士の黒川勇人さんは、「低カロリー高タンパクであるだけでなく、EPAやDHAを多く含むサバ缶のマーケットは、健康志向の広がりの中、ますます伸びる余地があります」と語る。

 私がある日、「きはち」のカウンターで、金華サバと野菜のピリ辛味噌和えをツマミに飲んでいると、7年の間にあった様々なシーンが走馬灯のように蘇ってきた。

 震災前、缶詰博士・黒川さんに、木村副社長と営業の鈴木さんを紹介されたこと。

 はじめて「金華さば味噌煮」缶を食べた時の感激。

 3月6日にはじまった木の屋と経堂コラボのサバ缶アートイベント。

 3月11日にテレビで見た津波の映像の衝撃。

 震災から5日後に鈴木さんからもらった「生きている」の電話。

 鈴木さんと松友さんとの再会と、2人が食べたサバ缶ラーメン。

 支援物資を集めた時の経堂のみなさんのあたたかい気持ち。

 石巻に向かい走り去っていく支援物資を積んだトラックの後ろ姿。

 はじめて泥まみれの缶詰と出会った時の衝撃。

 洗った缶詰から現れた文字「出会いに感謝します」。

 集まって来てくれた缶詰を洗うボランティア。

 洗った缶詰をどんどん買ってくれた近所のお店の心意気。

 若い人たちが集まった「木の屋カフェ」。

 サバ缶アートイベント最終日で木村社長が見せた男の涙。

 美味しかった松友さんの金華サバ入りハンバーグ。

 缶詰の洗う数と売れる数が増えて希望が見えてきた頃。

 工場跡地や店で爆発した缶詰。

 川開き祭りの花火。

 デザイン依頼を快諾してくれた佐藤卓さん。

 絵本『きぼうのかんづめ』と全国を巡った原画展。

 再建された鯨の形の缶詰工場。

「サーバー屋のサバ缶」などIT業界の応援。

 篠原ともえさんの「カレイのえんがわ」。

 震災直後の新入社員、さちの社内結婚と出産。

 売り上げ復活で「きはち」の恵理さんのガッツポーズ。

 思い返すと、本当にいろんなことがあった。

 そんな感傷に浸っていると、隣で四谷シモンさんが飲んでいたのでサバ缶のツマミをすすめるとひと口食べ、少しの間を置いて、力強くこう言った。

「美味しい」

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この連載について

初回を読む
蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜

須田泰成

東日本大震災による大津波は、宮城県石巻市にあった木の屋石巻水産の工場を壊滅させました。掘り出された缶詰は、東京・世田谷の経堂に運ばれ、商店街の人々の協力で磨き上げられ、1缶300円で販売されました。「希望の缶詰」と呼ばれたその缶詰は、...もっと読む

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コメント

tomohiro_smile 経堂における一部の飲食店には、 #サバ缶 メニューの文化が根付いている。 どれも絶品。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

yasunarisuda cakes(ケイクス)『蘇るサバ缶』最終章。 「どうして私たちは、あんなに熱くなって、泥まみれの缶詰を掘って洗って、希望、希望と言い続けたのか?」 その答えはありふれた日常のなかにありました。 https://t.co/WhrFYrFb2F 5ヶ月前 replyretweetfavorite