2015年8月のお盆明け。鈴木さんから、興奮気味の口調で電話があった。
「実は、なんだかすごいことになってまして!」彼が取り乱すとは珍しい。震災直後、津波で会社のすべてを失った時期でも、ユーモアを忘れず、常に「今何ができるのか?」を考えて、冷静沈着に事を運ぶ性格の人だったから。
「いったい何があったんですか?」工場が再建されて2年以上が経ったこの時期にトラブル発生は大変などと心配しながら聞いてみる。
「弊社の今春以降の業績の戻りがとても良く、決算月の9月末までの売り上げ次第では、震災前の売り上げを復活できそうな状況になっておりまして」
素晴らしいニュースだった。2010年度の売上げは16億円と聞いていた。小さな工場にもかかわらず、短い期間にここまで業績を回復するためには、社員、パートのみなさんのがんばりは並大抵ではなかったはず。が、話の続きを聞いてみると、ゴール間近にして、目標達成のハードルは、意外に高そうだった。
「なのですが、7月まで順調に来ていたんですが、食欲が減退する真夏の時期に入って微妙になってきておりまして……。売り上げが伸びれば良いのですが、落ち込むとなると業績の復活は難しくなります。ここは、経堂のみなさんのご協力もお願いできればと思いまして」と、今度は口調が困惑気味になった。
熱い夏は食欲が落ちる。夏はお中元シーズンでもあるが、工場再建から間もない木の屋は、まだまだギフト商戦への対応はできていなかった。また、夏のギフトの定番はそうめんやビール、水ようかんなど冷たい物が強い。カレンダーを見ると、9月末まであと40日余り。ここからどんな応援ができるだろうか。私は、数日のうちに返信をすると約束して、電話を切った。
木の屋の応援のことで悩むと、自然と足が向かう先は、経堂の個人飲食店と決まっていた。その夜も仕事が終わると「きはち」の暖簾をくぐった。木の屋が震災前の売り上げを復活しそうだと話すと、おかみさんの恵理さんが、いつもながらのロックな反応をした。この一家は、揃って音楽好き、ロック好きで、毎年8月は、一家揃ってフジロックフェスに行くほど。
「ねえねえ、すっごいわよ! 木の屋復活なんだって!」
恵理さんが、早とちりして、ご主人の秀樹さんに話しかけている。「復活しそう」と言っただけなのに、頭の中は早くも「木の屋復活!」になっているようだ。聞いているうちに笑いが込み上げる。が、次の瞬間、これだ! というアイデアが湧いた。
それは、「#木の屋復活」というハッシュタグを使用して、木の屋メニューを提供する経堂のお店が協力して情報発信する短期決戦のプロジェクトだった。「きはち」のご家族、カウンターの常連さんたちに話をしたら、「よしやろう!」という力強いリアクションが返ってきた。その夜、私は、「経堂系ドットコム」に次のような投稿をアップした。
* * *
経堂とは縁が深い木の屋石巻水産さんが、
震災前の売り上げ復活に王手をかけています。
残された時間は、およそ40日。
「さばのゆ」と経堂からも
じわじわ発信しようと考えています。
木の屋メニューを出す経堂のお店とも連動して、
力強くいきたいな、と。
ハッシュタグは、#木の屋復活 です。
木の屋の商品は、こちらのホームページからご購入頂けます。
東京では、秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」はじめ、
日本百貨店各店にて販売しております。
木の屋の商品を購入されたら写真を撮って
ハッシュタグ #木の屋復活 を付けて
SNSで発信して頂けると嬉しいです。
* * *
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。