〈「いだてん」第22回「ヴィーナスの誕生」あらすじ〉
東京府立第二高等女学校では、四三(中村勘九郎)の熱血指導によって女学生たちがスポーツに打ち込んでいた。教え子の富江(黒島結菜)たちは全国的なスポーツアイドルとなるが、その前に日本女性離れした見事な体格の人見絹枝(菅原小春)が立ちはだかる。四三の指導を手伝うシマ(杉咲花)も大きな悩みを抱え、それをスヤ(綾瀬はるか)に打ち明ける…
シマには名字がない
第22回、最も印象に残ったのは、村田富江でも人見絹枝でもなく、シマだった。それくらい、今回は、シマの表情を間近に捉えたショットが多かった。
懐妊したことを言いだしかねる顔、そしてそんな自分のことを脇に置いて生徒のために足を測ってやるときの横顔、さらに「一緒に走りましょうよ」と村田富江に言われて、遠慮するときの顔、おずおずと身ごもっていることをスヤに告げるときの伏し目がちの顔。そして、「でかしたー!」と四三に抱きしめられたときの、四三の肩越しに捉えられた、はにかんだような笑み。
それだけではない、二階堂トクヨの決意を聞くときも、人見絹枝のことを語るときも、そして生徒の立てこもりに同調するときにも、シマが印象的に映し出されていた。どのシーンにも、杉咲花のあどけない、それでいてちょっとはかないところのある表情がうまく活かされている。
考えてみると、シマは不思議な存在だ。四三はシマのことを「シマちゃん先生」と呼ぶ。なんだか朝ドラの「梅ちゃん先生」みたいだと最初は思ったのだが、よく考えてみると、シマにはもともと名字がないのだ。この物語の第一回から登場しているにもかかわらず、不思議なことにシマのもとの名字が明かされることはない。いまでこそ結婚して「増野シマ」になっているけれど、そういえば先週の結婚式の際にも、シマの両親は顔を見せなかった。はじめは三島家の女中として奉公していたのが、ミルクホールで働き、気づくと竹早の先生になっている。けれど生活にこれといった後ろ盾があるようには見えず、どこか浮世離れした希薄なところがある。その一方で、アスリートにあこがれ、誰もいない早朝、一人足袋で街を走っている。嘉納治五郎に励まされて、オリンピックを夢見ている。なんというか、スポーツへのあこがれがそのまま人の形になっているようなのだ。
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