夫が、「誰とも話をしたくない」と思うのは、“疲れているときと落ちこんでいるとき”です。そんなときの夫は、ムスっとしていたり、そっけない返事しかしなかったり「話かけないで」オーラを出しまくっています。男性は自分の心の状態を言葉で表すことが苦手で、気分によっては話をすることが面倒だと感じてしまうのです。疲れているときには「多くを話しかけず優しく見守ってほしい」というのが夫の本音なのです。
いっぽう妻は、自分が疲れていたり落ち込んでいたりする状態のときには、いち早く気づいて「どうしたの?」「何かあったの?」と、声をかけてもらいたいと思っています。
妻が陥りやすい「負のスパイラル」とは?
夫の智和さん(38歳)とのコミュニケーションに悩み、相談に訪れたのは、妻の安江さん(39歳)。結婚9年目になる共働きの夫婦です。8歳の長男と7歳の長女を含めて4人家族です。
安江さんの理想の夫婦像は、子どもたちが寝た後に、夫婦ふたりでハーブティーを飲みながらお互いの出来事を報告し合い、満ち足りた気分で一日を終えることができる夫婦、だそうです。
しかし現実は……、帰宅したとたんにパソコンを開き、食事中も仕事の資料らしき書類から目を離さず無表情な夫。
「仕事だからしょうがない」と思う反面、安江さんにとっては不快な行動です。
「ねえ、食事中くらい仕事はいったんヤメにしましょうよ」
そう言う安江さんに対して、無言で食事を終えて席を立つ夫。
そして、子どもたちはこの重い空気を感じとって、自分たちの部屋へ避難するのがいつものパターン。何を言っても黙るか、そっけない返事しかしてくれない夫に、安江さんは我慢しきれず、毎日のように改善をうながしました。
ところが、改善するどころか、夫はますます不機嫌になっていくばかり。しまいには、「オマエといると、気が休まらない」と言われる始末……。
「話もしてくれないし、聞いてもくれない。何を言っても夫は不機嫌で、どう対応したらいいのかわからない」
実は、このようなケースは、浮気問題と同様に多い相談事例です。
相談に訪れた安江さんを含め、多くの妻が陥っている〝負のスパイラル〟があります。それは、「決めつけてしまうこと」です。
どういうことかというと、黙りこむ夫、話をしてくれない夫のことを「私に愛情がなくなったにちがいない」「いつも不機嫌で怒っている」と、勝手に決めつけてしまっていることに気がついていない妻が多いのです。
自分のことやその日一日の出来事を積極的に話してくれる夫も確かにいますが、どちらかというと話さない夫のほうが一般的で、必ずしも怒っているわけでも不機嫌なわけでもないのです。
今回のケースでの智和さんの言動は、問題がなかったとはいえません。でも、夫の“生態”を知れば、対応もそれほど難しいことではなかったりします。
そこで私は安江さんに、智和さんのいままでの言動や性格、タイプなどをお聞きし、「夫の取扱説明書」を作成しました。
実行していただくのは、これまで夫へ改善をうながしてきたり不満を言いつづけてきたりした行為を、すべてストップする作戦です。ストップするといっても、無関心になるのではなく、「余計なことを言わないようにする」ということと「夫をコントロールしようとしない」ということです。
安江さんには、以下の(1)〜(9)のことを実行して様子を見てもらったのです。すると、効果はすぐに表れました。いままで〝押せ押せ〟だった妻が急に〝引いた〟のですから、きっと夫もその変化を感じ取ったのでしょう。
夫は「最近なんか変わったね」と言って、口うるさく言わなくなった安江さんを不思議に思いながらも、居心地良さそうにしているそうです。
いまでこそ“自分を楽しむ”ことを第一に考えるようになった安江さんですが、これまでは「自分だけ趣味に没頭したり、友達と出かけたりして楽しんでいると、夫の機嫌が余計に悪くなるのではないか」と思っていたようです。
また、自分だけが楽しんでしまうと、夫に「借りができた」と感じてしまい、心から安心して自由に楽しめていなかったと言うではありませんか。
安江さんは“理想の夫”像への思いが強かったため、むりやり夫を変えさせようとしていました。自分が言ったことに対して、夫から期待どおりの言葉が返ってこないと、不安になったりイライラしたりしてしまうことが多かったのです。そして、そのイライラの原因を、すべて夫のせいにしていました。
このような状態を改善するために必要なマインドは、「夫のことは信頼するけど期待しない」ことと「自分を楽しむ」ことです。夫から理想どおりの応えが返ってくるなんていう期待はせず、自分という軸をしっかりもって生活することで、結果的に理想どおりに変わっていくのです。
いまでは子どもが寝静まった後に、夫の智和さんが安江さんのお気に入りのハーブティーを入れてくれることもあり、「今日一日どうだった?」という、なんでもない会話が嬉しくてたまらないのだそうです。
何を言っても不機嫌な夫に対して妻が実行したこと
(1)労いの言葉は積極的に。
(2)夫の顔色をうかがう必要はない。自分はいつも「普通」でいること。
(3)疲れていたり機嫌が悪そうだったりしたら、多くを話さずそっとしておく。
(4)夫が何かに集中しているときには、時間をズラして話しかけるようにする。
(5)ときには話しかけず、お茶を入れてあげるなど、「行動」で接することも必要。
(6)不満をぶつけるのではなく、「不安を伝える」ようにする。
(7)夫の言動に振りまわされない「自分軸」をつくる。
(8)自分が「楽しい」と思うことを見つけて取り組む。
(9)常に自分の気持ちを安定した状態にしておく工夫をする。
【夫へ:無言の圧力ではなく、言葉で伝えると妻は安心します】
妻や子どもたちは、貴方の“表情”に敏感です。疲れたのでしばらく放っておいてもらいたいときは、「今日は疲れたから少し放っておいてね」と、先に伝えておくのがいいでしょう。事情がわかれば妻も安心していられます。逆に、妻が疲れているときや機嫌が悪そうな顔をしているときに放っておくのはNG。すかさず気遣いの言葉をかけてあげるようにしてくださいね。
【妻へ:タイミングと声のかけ方で、夫は“聞く態勢”を整えます】
夫に話を聞いてもらいたいのなら、話しかけるタイミングが大事です。いきなり話しかけるのではなく、夫がリラックスしているときを見計らって、「5分だけ話を聞いてくれる?」「ちょっと相談したいことがあるんだけど、いま大丈夫?」というように、まずは夫に〝聞く態勢〟を整えてもらえるような工夫をしてみてください。