第261回 分数を極める:調和の和(前編)

「もしもここに先輩がいらしたら、なんて答えるだろう……って考えるんです」とテトラちゃんが勉強について語る!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

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図書室

「テトラちゃん、今日は何を考えているの?」

テトラ「あっ、先輩! 今日はですね、$1+1$を考えているんです!」

「え?」

ここは高校の図書室。いまは放課後。

テトラちゃんの後輩。 いつも元気で、大きな目をぱちぱちさせながら数学に熱心に取り組む彼女。

でも、$1+1$を考えるって……いったいどういうことだろう。

テトラ「これですよ」

「ああ、村木先生の《カード》が来たんだね」

は、テトラちゃんが渡してくれた《カード》を見る。

村木先生は、数学教師。

僕たちにときどき《カード》をくれる。

そこには数学の問題が書いてあったり、 数式がぽつんと一つ書かれていたり、 あるいは数学の定理が書かれていたり……

僕たちはそれをきっかけとして考える。 問題を解く。問題を作って解く。定理を証明する。証明できなかったら《例》を作る。 とにかく考えるんだ。

考えたからといって数学の成績に加点されるわけじゃない。 表彰されるわけでもない。僕たちはただ、楽しいから考えるのだ。

《カード》で明確に「これを考えよ」と示されるときもあるけれど、 単なる「思わせぶり」に見えるときもある。 でも、それはまあ、どうでもいいんだ。 僕たちは、《カード》をきっかけにして考えることを心から楽しんでいるのだから。

でも、今回のカードは……

テトラ「$1+1$ですよね。思いっきり」

「思いっきり、$1+1$だね」

テトラ「もしかしてこれは、村木先生史上最大のシンプルな《カード》かもしれませんね、先輩っ!」

「確かに、これはシンプルだ……いや、違うよ、テトラちゃん」

テトラ「え?」

「ほら、いつだったか、何も書かれていない《カード》が来たことがあったよね」

テトラ「ああ……あの、丸いカード」

「そうそう(第139回参照)」

テトラ「それから、正五角形のカードもありましたね(第165回参照)」

「そういえば、そうだったね。ところで、テトラちゃんはこれで何を考えていたの?」

$1+1$から進んでいく

テトラ「はい。あたしはもちろん$1+1=2$であることを知っています。でも、それで終わりじゃおもしろくありませんよね。 それにこの《カード》には二つの式があります。つまり、 $$ 1+1 $$ と、 $$ 1+\frac{1}{1+1} $$ の二つです」

「そうだね」

テトラ「だから、あたしは《これをどんどん続けていったらどうなるか》を考えてみることにしました」

「これ?」

テトラ「はい。$1+1$は$1$を使って$2$を作っています。続けていけば$3,4,5,\ldots$と数が作れますよね」

$$ \begin{align*} 1+1 &= 2 \\ 1+1+1 &= 3 \\ 1+1+1+1 &= 4 \\ 1+1+1+1+1 &= 5 \\ &\vdots \\ \end{align*} $$

「そうだね。$1$ずつ増える数列が作れる。$2,3,4,5,\ldots$」

テトラ「それと同じことを$1+\frac{1}{1+1}$でもできる、とあたしは思いました。$\frac{1}{1+1}$は$\frac12$ですから、 こんなふうに書いていってみたんです」

$$ \begin{align*} 1+\frac1{1+1} &= 1+\frac12 = \frac32 \\ 1+\frac1{1+1+1} &= 1+\frac13 = \frac43 \\ 1+\frac1{1+1+1+1} &= 1+\frac14 = \frac54 \\ &\vdots \\ \end{align*} $$

「今度は別の数列が作れたね。$\frac32, \frac43, \frac54, \ldots$」

テトラ「はい、あたしはそれから、こんな数式も作ってみました……$$ \begin{align*} & 1+\frac1{1+1} \\ & 1+\frac1{1+1}+\frac1{1+1+1} \\ & 1+\frac1{1+1}+\frac1{1+1+1}+\frac1{1+1+1+1} \\ & 1+\frac1{1+1}+\frac1{1+1+1}+\frac1{1+1+1+1}+\frac1{1+1+1+1+1} \\ & \vdots \\ \end{align*} $$ ……つまり、これは…… $$ \begin{align*} & 1+\frac12 \\ & 1+\frac12+\frac13 \\ & 1+\frac12+\frac13+\frac14 \\ & 1+\frac12+\frac13+\frac14+\frac15 \\ & \vdots \\ \end{align*} $$ ……ということです」

「なるほど、なるほど」

テトラ「ここまでは、何といいますか、《カード》をきっかけにして数式を書いただけなんですが……$$ 1+\frac12+\frac13+\frac14+\frac15+\cdots $$ ……これを書きながら、あたしは少し変な感じがしました」

「変な感じ?」

テトラ「あの……笑わないでくださいね。当たり前のことなんですが、$1$をどんどん足して$1,2,3,4,5,\ldots$と進むのはすごくキッチリしている感じがします。 キリがいいといいますか。$3$は$3$ですし、$5$は$5$です」

「うん……まあそうだね。僕も整数はどこか《きっちり》してる感じはするよ」

テトラ「はい、でも、それを分数の分母に持ってくると、そのとたん、そのキッチリ感はどこかに行ってしまいます」

「うーん、それはどういうことかなあ」

テトラ「えっとですね。さっき$1+\frac12+\frac13+\frac14+\frac15+\cdots$と書いていて『あ、これ、足す数がだんだん小さくなっていく』と思いました」

$$ \begin{align*} \frac12 &= 0.5 \\ \frac13 &= 0.333\cdots \\ \frac14 &= 0.25 \\ \frac15 &= 0.2 \\ \frac16 &= 0.1666\cdots \\ \frac17 &= 0.142857142857\cdots \\ &\vdots \\ \end{align*} $$

「もちろん、それはそうだね。$n$が大きくなれば、$\frac1n$は小さくなる」

テトラ「はい。それはもちろんあたしもわかります。でも、何といいますか……もやもやと、えーっと、うまく説明できてませんね、あたし」

テトラちゃんは、両手をこねるような謎のジェスチャをしながら話すけど、意味はわからない。

「うーん、僕もテトラちゃんがどこにもやもやしているかわからないなあ。《理解の最前線》を説明するのがすごくうまいテトラちゃんでも説明できないことがあるんだね」

テトラ「えっと、いえ、あたし、そんなに説明うまくないですっ! いつもどたばた考えているだけで……あ、でも、先輩がいらっしゃるとうまく説明できるのかもしれません」

が? 僕がテトラちゃんの説明に関係あるの?」

テトラ「はい……ありますね。はい、確かにあります」

「へえ」

テトラ「あのですね。それはなぜかというと、先輩はあたしの話にきちんと耳を傾けてくださるからです。 ですから、あたし、『ちゃんと説明しなくちゃ』と思えるんです。 それに、あいまいなところを指摘してくださったり、 あたしの勘違いをすっと正してくださったり……」

「なるほど。そういってくれるのはうれしいな」

テトラ「思い出しましたよ。あたし、家で数学の問題を解いているときも同じことをやってます」

「家で? 同じこと?」

テトラ「はい。問題を読んでいて行き詰まったときに、先輩やミルカさんに向かって説明するつもりになるんです。 この問題はこういうことを尋ねているみたいですとか、条件はこれですとか、あたしは最初こんなふうに考えました……という具合に」

「ああ、それはおもしろいなあ!」

テトラ「それから、あたしは想像するんです。もしもここに先輩がいらしたら、なんて答えるだろう。もしもここにミルカさんがいらしたら、どんなふうに言うだろう……それを想像します。 もちろん実際にはお二人はいらっしゃらないんですけど、想像することはできます」

「うん……」

テトラ「そうやって真剣に想像すると、不思議なことに解決のヒントが見つかることがよくあるんですよ!」

「なるほど……いまのテトラちゃんの話を聞いて思うんだけど、それは《ポリアの問いかけ》と似ているね」

テトラ「あっ、そうですね! 問いかけ上手なポリアさん」

「《定義にかえれ》や《求めるものはなにか》や《条件をすべて使ったか》や……それらは、ポリアが僕たちに問いかけているともいえるし、 僕たちの中にポリアがいると想定して、 どんな問いかけをしてくるかを想像するのに似ている」

テトラ「確かにそうですね。あの、でも、その問いかけは、数学じゃないですよね。 いえ、数学なんですけど、 いまあたしが見ている問題のことをポリアさんは知らないわけじゃないですか。 だってポリアさんのことを想像しているだけですから。 問題の具体的なことを何も知らないのに、ポリアさんの問いかけが考える助けになる。それってとっても不思議ですっ!」

「ほんとうにそうだね。不思議だ。きっと《考える》ことの大事な部分を支えてるんじゃないかなあ」

テトラ「《考える》ことの大事な部分……」

和を求める

「ところで、さっきのこの式だけど、テトラちゃんは《足す数がだんだん小さくなっていく》と言ってたよね」

$$ 1+\frac12+\frac13+\frac14+\frac15+\cdots $$

テトラ「はい。そうですよね。分母がだんだん大きくなっていきますから」

「うん、足す数は$\frac12, \frac13, \frac14, \frac15, \ldots$とだんだん小さくなっていく。でも、いくら小さくても、それは$0$よりは大きい数だよね」

テトラ「そうですね。たとえ$\frac1{100}$まで行っても、$\frac1{10000}$まで行っても、それは$0$よりは大きいです。ちょっとだけ」

「だとしたら、$$ 1+\frac12+\frac13+\frac14+\frac15+\cdots $$ はどうなると思う?」

テトラ「どうなるか?」

「つまり、極限を考えたとき、正の無限大に発散するか、それとも、ある値に収束するか、どちらだろうか」

テトラ「あっ……極限を求めるんですね」

テトラちゃんの表情が固くなる。

「いやいや、そんなに警戒しなくてもいいよ。ちゃんとした問題にするね」

問題($H_n$の極限)

$n$を正の整数($1,2,3,\ldots$)として、 $$ H_n = \frac11 + \frac12 + \frac13 + \cdots + \frac1n $$ と置く。$n \to \infty$のとき、$H_n$の極限は選択肢(1)と(2)のどちらになるか。

選択肢(1)$n \to \infty$で$H_n \to \infty$になる。(正の無限大に発散)

選択肢(2)$n \to \infty$で$H_n \to H$になる。ただし、$H$はある実数とする。(収束)

テトラ「……」

「テトラちゃんは選択肢(1)と(2)がそれぞれ、何をいってるかはわかるよね?」

テトラ「は、はい。あたしの理解を聞いていただけますか」

「もちろん、どうぞ」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

interrupt_math https://t.co/aPpcSSFUhI 今回のはめちゃくちゃ面白かった 1+1からε-Nの復習ができるちゃうのが凄い あと発散する速度が遅すぎてビビった 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

31mskz10 https://t.co/5FgUK0HXSn 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

ipom もう、それが恋でなければ何なのおおお(恋愛脳) >> "もしもここに先輩がいらしたら、なんて答えるだろう……って考えるんです" >> 分数を極める:調和の和(前編)| 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

as_bara3 定義をちゃんと確認するのって大事。数学の言葉は、ルールさえわかってしまえば誤解なく伝わるところがいいよね… 約1ヶ月前 replyretweetfavorite