仕事酒【パリッコ】

お酒を飲んで、文章を書いて、お金をもらう。そんな夢のような仕事ならぜひやりたい…なんて思うけど、その現実とは? パリッコさんによる仕事酒考です。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

取材酒の矛盾

特殊すぎてあまり共感してもらえる話ではないと思うのですが、仕事としてお酒を飲む機会が多いです。というか僕の仕事の現状、9割くらいがそれで、かなり頻繁に仕事酒を飲んでいます。「軽く飲みながら打ち合わせしましょう」的な仕事酒の機会ならば頻繁にあるという方も多いでしょう。僕もよくあります。が、より特殊なのは、酒を飲み、つまみを食べ、その時間を堪能し、後日何らかのレポート記事にしなければならない場合。つまり、取材酒ですね。これ、ぶっちゃけかなり矛盾した働きかただと思うんです。

だって、飲んだ翌日って確実にパフォーマンスが落ちるでしょう。「酒と睡眠」の回でも書きましたが、休肝してぐっすりと眠った場合と比べ、ポンコツ度合いは段違い。ダル~い体を無理やり引き起こし、アンテナ状態の悪いブラウン管TVのような頭をぶっ叩き、グニャグニャにのたうち回ったメモの文字とピンボケした写真の情報を頼りになんとか記事にまとめる。本来仕事って、もっときっちりコンディションを整えて臨むべきものだと思うんですが、それが自分の仕事なのだからしかたない。自分の一番の趣味が「酒を飲むこと」であるからこそ、なんとか楽しく続けられているわけですが。

この世で一番かわいそうな飲み物

某男性週刊誌に、毎週1ページを使って1軒の酒場を写真と文章で紹介する連載があります。数人のライター、カメラマンで回していて、僕もナオさんもそのライターのひとり。一口に酒場取材といっても方法は幅広いんですが、この仕事は自分の中ではかなり事務的な内容に分類されます。指定の日時に、編集さんが確かな情報網で選んでくれた名酒場へ行き、そのお店のおすすめのおつまみ3品と、お酒を1杯注文。カメラマンさんが料理や店内を撮影してくれている間に、実際に出してもらったものをいただきつつ、店員さんにお店の歴史や基本情報を伺うという流れ。事務的ゆえのおもしろさがあったりして、ナオさんと飲みながら「あるある、そういうパターン!」なんて盛り上がることも多いです。

「酒」と「仕事」という本来相反するのふたつが結びついた現場には、店員さんにもいろいろな方がいます。多いのが「お仕事中だし当然お酒は飲めませんよね……。ホッピーのナカ、撮影用に水にしておきましょうか?」的な気遣い。大変ありがたいのですが、仕事とはいえ酒場に来て酒を飲めないほど悔しいことはありません。あわてて「い、いえ! 実際に飲んで料理との相性を確認して書きたいので、いつも通りでお願いします!」なんて答えるんですが、ホッピーなんて普段から散々飲んでるんだし、確認も何もないだろうって話ですよね。だけどさ、撮影用の水にホッピーを注ぎ足したものなんて、この世で一番かわいそうな飲み物じゃないですか。やっぱりここは焼酎を割ってあげないと、せっかくこの世に生を受けたホッピーが浮かばれないよ。

天国地獄

もっと取材慣れしたお店になると、「うちで雑誌向けの料理ならこれとこれとこれだね。一応すぐ出せるように用意してあるよ。あとこれは撮影用の日本酒ね。中身は水にしてあるから!」と、流れるように取材が進むようなこともあります。で、「あ、お代はいらないから、料理は食べていっちゃってね!」なんて、とびきりの笑顔で大将。そんなお店に限って、仕入れにこだわった旬のお刺身とか、ちょっと小粋な珍味酒肴の類がテーブルに並んでいることが多く、これを究極の無味液体、水を飲みながらいただく時の、心にぽっかりと穴が空いた感といったらありません。

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“よむ"お酒

パリッコ,スズキナオ
イースト・プレス
2019-11-17

この連載について

初回を読む
パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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