以前、「山小屋で起きた奇妙な話」という記事を書いたらわりと好評だったので、今回はその第二段を書こうと思う。
山小屋では数年にひとり、自称・霊感が強いスタッフがいて、「あの部屋で幽霊を見た」などと言い出す。
だから夏に向けて怪談でも書こうと思ったが、幽霊の目撃情報って「見た人がいる」こと以外に面白いエピソードがなかった。
なので今回は、幽霊の出てこないちょっと不思議な話を紹介する。
怖い話が苦手な人も、安心して読んでいただきたい。夜にトイレに行けなくなることはない……と思う。
狐に化かされた? 気づいたら違う道にいた話
常連の寺田さん(仮名)は、下山する道を歩いていたはずなのに、気づいたら違う道にいたことがあったそうだ。。
以下は、寺田さんが支配人に語った話。
寺田さんは20年以上前からの常連さんで、山小屋には何十回も来ている。そのため、ベテランのスタッフは顔見知りだ。
いつものように山小屋に宿泊した寺田さんは、朝、山小屋を出て下山を開始した。
山小屋からは3本の道が伸びている。下山するルート、縦走するルート、山頂に行くルートだ。道標があり、初めて来た人でも間違えようがないほどわかりやすい。
寺田さんは下山ルートを歩いていた。寺田さんにとって、その道は何十回と歩いてきた道だ。
しかし、歩いている途中でふと、異変に気づいた。
景色が違う……!
たしかに下山ルートを歩いていたはずなのに、なぜか反対方向の縦走ルートの途中にいたのだ。
下山ルートは登山道が下り坂で、縦走ルートは平坦。登山をやっている人間なら、体感としても間違えようがない。怖くなって来た道を引き返し、山小屋へ戻った。その後は、無事に下山できたそうだ。
そのときのことを、寺田さんは「狐に化かされた」と言っていたらしい。寺田さん自身もわりと落ち着いていたし、その話を聞いた支配人も、そこまで驚かなかったそうだ。
というのも、長年山にいるとそういう話をよく耳にするから。山って、気づいたらなぜか全然違う場所にいたとか、何度も同じ場所に出てしまうとか、そういう話が多い。私はそういう経験がないけど、もしもそんなことが起こったら取り乱すと思う。
なぜ、そういうことが起こるのか? 初心者であれば「道を間違えたんだな」と思うけど、寺田さんのようなベテランでもそういうことが起こるのは本当に不思議だ。
山ではよく、何度も同じ場所に出てしまうリングワンダリングという現象の話を聞く。視界が悪いなどの原因から方向感覚を失い、無意識のうちに円形にさ迷い歩くことだ。
しかし、寺田さんの場合は、本人が円形に歩いてきたとは考えにくい。下山ルートと縦走ルートは反対方向。登山道じゃないところを通ったとすれば、かなり距離もあるし、命がけの大冒険だ。「リポビタンDのCMみたいなところ」と言ったら少し大げさだけど、とてもじゃないけどぼーっと歩けるようなところではない。
それなら、寺田さんの「下山ルートを歩いていた」という認識がそもそも誤りで、最初から縦走ルートを歩いていたのだろうか?
でも、20年前から何度も来ているのに道を間違えるとは考えにくい。
私は、この件に整合性のつく解答はないと思っている。寺田さんの言うとおり、本当に違う道に出たのだろう。
山にはそういう得体の知れなさがある。
生霊? あるスタッフが同時に2つの山小屋で目撃された話
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